おもてなし
この町には灯りがある。
夜の灯りは人を照らし、不安を払拭し、そして人に眠る以外の選択肢を与えてくれる。
この町の弱点だった極低地という点は疑似太陽とガス燈によって克服され、どころか街道から町の灯がよく見えるという利点に変わった。
夜闇は深くなり、星空だけが人の寄る辺になった。
第二陣、第三陣は闇の中で賑わいと灯を見つけて吸い寄せられる。彼彼女らが町に到着して、町が更に賑やかになっていく。
出来たばかりの頃のガワだけだった町に人が来て、声がして、活気が満ちて、町としてやっと完成に至る。
「素敵な眺めです……」
「誘蛾灯とはまさにこの事。まぁワラワラとやって来ているな。」
疑似太陽近くの他より一際高い建物から賑わう風景を見やる。同時に言動に対する非難の意志が籠った目で見やられる。
しかし、文字通りこれは誘蛾灯というべきもの、現象だ。
つい数日前までこの闇に閉ざされた村に見向きもしなかった連中がその中に太陽を見つけてそこに群がる。これを誘蛾灯と言わず、群がるロクでもない連中をそう形容せずしてどうしよう?
面白半分で噂を確かめに来ただけの表情筋の緩み切った者、主に命令されしぶしぶ来たもののそれなりに楽しんでいる者、競争を面白がって来て一通り満足して恍惚としている者、知り合いに巻き込まれて来たウンザリした表情の者…………
多種多様な人が集い、大半が明るい夜と温かい料理と暖かい部屋で弛緩しきっている。
しかし、例外も存在する。
村人と話すフリをして周囲に目を配り掠め盗ろうとする者、何もない所で転んだフリをして地面を観察する者、物見遊山で散策している……にしては懐に物騒なものを入れている無粋な者……。
利権や特別の周りにはこうしたロクでもない厄介が舞い込んで来る。いくら当事者がそれを歓迎しなくとも、向こうからやって来る。そして、舞い込んでくる抵抗を振り払えない者は……
「喰い尽くされる。それを避けたければ根絶やし、撃滅し、皆殺しが最も手っ取り早い……」
あんな素人連中でも頭だけにすればそれなりのメッセージにはなる。
「淑女というものはより良いを歓迎しますが、それは必ずしも『最も効率的な手法』のみを追い求めることや盲信しているということではないのです。
招いた客人を手にかけるなど、あってはならないので、却下させていただきます、ね。」
有無を言わせぬ圧力がそこにはあった。にしても……
「招いた客人……ね。」
「勿論です。この町にわざわざご足労いただいたのですから、しっかり歓迎して、満足して帰って伝えていただかなくてはなりません。」
いいね、ありがとうございます。
1200話記念、後程やることになりそうです。ごめんなさい。