素材は一緒、あとは使い方次第
夜は暗いものだ。
冬に近づけば寒いものだ。
それは子どもだって知っている真理でわざわざ議論するような余地はない。
「寒いでしょう。お茶をどうぞ。
お食事を温めますから、少し火に当たって、お茶を飲んで待っていて下さいな。」
気付けば村人に手を引かれ、何の変哲もない民家に引き込まれ、太陽で明るく照らされたような一室にあれよあれよと引き込まれ、湯気立つお茶を出され、温かい部屋に座っていた。
なんだ?
何が起きている?
というより、どこだここは?
スバテラ村という場所は知っていた。
一昔前は主要な街道沿いの村という事で宿を経営して、街道を行く人相手に商売をして稼いでいた。
だが、化け物の噂が出てからはそもそも街道を使う者がほぼ居なくなり、忘れ去られた村になっていた。
寂れていた……だろう。そもそも忘れていたので噂や情報さえ無かった。
実は知らないだけでそこまで寂れていなかったかもしれない。だが、ここまでの規模の、ここまで高度な設備があるとは思えない。
部屋には一人。机に窓に扉だけで装飾品は皆無という、殺風景といえば殺風景な部屋。
しかし、天井に見た事のない照明器具がついていて、指先の毛まではっきり見えるほど明るく、部屋は夏かと思うほどに温かい。
忘れ去れていた村の現状とは到底思えない。たとえ全盛期の宿場村だったとしてもこれほどの設備がこんな一般的な村の一室にあって良いのか?
何があった?炎の柱といい、噂といい、この村には絶対何かがあるぞ。
「お待たせしました。粗末なもので悪いんですけど、お召し上がり下さいな。」
あれこれと考えているうちに、目の前に真っ白な湯気が立ち込めた皿が出された。
「これは……?」
「久々のお客様なのでサービスです。どうぞ、熱い内にお召し上がり下さい。」
そう言って村人は部屋から出て行った。
「なんだこれは?」
皿の上の料理、料理?これはなんだ?見たことがない。
今日何度目か分からない困惑。
その原因は皿の上の何か。
円形の茶色いパンのように見える。だがその中心部は膨らみ、明らかに何かが入っている。そして、表面が油か何かでコーティングされて光沢を帯びている。
先頭の一陣より先に来ていた連中が村人に化けて毒を盛っている……訳ではないだろう。
腹が低く唸る。
極限の緊張状態の中、走り続けてきた。
さっきまで外の寒さのせいで全身凍り付くようで頭の先から足先まで震えていたから気付けなかったが、この温もりで全身が弛緩し、急に空腹が襲い掛かってきた。
毒じゃないだろう。
悪意は村人から感じなかった。ぼったくりの匂いもない。
したらもう……
既に手に取って、熱々のそれを手に取ってかぶりついていた。
昨晩投稿後、爆発的にPVが伸びていました。最近起こるこのステキ現象。とてもうれしいです。
そして、今更気が付いたのですが、実はもうじき1200話です……。




