ようこそ、スバテラ村へ
陽は落ちて、空には星々。
それらの僅かな明かりを頼りに今まで数多の夜を過ごしてきた。
星の光は弱く小さく儚い。
寒く、暗く、心細い夜を朝まで震えて苦しみながら長らく耐えていた。
「だが、君達は今日そんな日と一先ず終わりを迎える。
夜が怖い?私も怖い。
だから夜の帳を打ち破ろう。発明とは何時だって過去の常識を打ち破り未来を明るく照らすものであるべきだ!さぁ、『疑似太陽』起動!」
自称そこそこ天才、ジーニアス=インベンターの発明した魔道具が陽の目を見る。
違う、魔道具が陽の目を見る訳じゃない。
陽の目を見るのは人だ。
人は今、夜の中に煌々と輝く太陽を見た。
その魔道具の性質は制御に際して幾つかの魔法的制御を行っているが、ガスを光と熱に変え、制御するだけというシンプルなもの。周囲を燃やさず照らし熱するのみのそれは昼間に町の地中を這うサンドワームのガス管からガスを供給し、夜になれば周囲を照らし暖めるというもの。
今回は暖めるだけでなく周囲に光を届ける灯台的な役目があるために直視すると目を痛める出力になっているが、本来疑似太陽は光を抑えて『暖』の役割を担い、町中に立っているガス燈が『光』の役割を担うようになっている。
「なんだ?」
スバテラ村行きデスレースの先頭集団は固まっていた。
自分の予想や思考から生まれ得ない理外の事柄を前に人は止まる。
自分がちっぽけな存在だと認めない限り、未知や理外を己の成長の糧と見れない限り、止まるのだ。
あらかじめ何が起こるか知らされていた村人も、レース参加者も、魔道具を飛ばして一目見ようとした輩も、その大きな光に照らされて止まった。
「さぁ、稼ぎ時です。」
「成功。及第点だが改善点も見つかったな。」
「ここからが本番だ。気を抜いていないことは百も承知だが、気負っていることも百も承知だ。
今やこの問題は容易になり、味方は増え、無理難題ではなくなった。気負うことなくリラックスして十全に適切に事を成せば成る。無茶をしないように。」
「…分かりました。」
「矢張り無茶する気だったね。」
『疑似太陽』を号砲として光の中で動き出す者も僅かにいた。
ここからが面白くなる。
誰かが駆け出した。
他のデスレースの参加者もそれに気付き、気を取り直して走り出す。
目的地の噂話は沢山あってガセネタも多い。だが何かがあると、益か厄かはわからないが『何か』があるかもしれないと思っていた。
だが、この光は『何か』がしょうもないものでないと、ガセじゃないと確信させた。
ここまでくると最早邪魔をしている間に自分が速く先に着いた方が早い。
足を速く速く動かす。光が、熱が、照らし温め、そして…………
「スバテラ村にいらっしゃい。さぁ、お客様方、寒かったでしょう、どうぞこちらへ。」
人々からの厚い歓迎を受けた。
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ストーリーを思い切り動かす腹が決まった事もあり、現在モチベーションとタイプ速度、上がっています。
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