夜影が伸びる
陽が地平線に沈んでいった街道。
そこは狂気のデスレースのような様相を呈していた。
全力で走る以上、自分がこれ以上速くなる事は最早出来ない。
自分は一番になりたい。しかし、相手は速く、少しでも自分が体勢を崩せばそこでおしまい。
ならばどうすれば良いか?
『相手の邪魔をすれば良いのだ。』
欲に目が眩んだ連中は皆そんな発想に取り憑かれ、自分の目の前に居る連中の足を引っ張り、自分が駆けて蹴り飛ばした土と小石を後ろの連中の顔に叩きつけることしか考えていない。
先頭集団はそれが顕著で正に地獄だ。
先頭に居る一人を後ろ二人が停戦協定して足を引っ張り、一人が地面に顔を叩きつけた次の瞬間には後ろ二人が協定を破棄して殴り合い、そして共倒れという形になって転げ回り、後ろに団子になっていた集団にそのままぶつかり大乱闘。
その後続が大乱闘の団子を避けつつ追い抜かす形となり、先頭になった連中がまたも足を引っ張りあい……そうして後ろの団子が先陣を切る形となって……今、先陣に居るのは自分達だ。
互いに互いをにらみ合い、牽制しあい、様子を見て、そして怯えている。
さっきまで好戦的な奴がこの団子の中に居て、前に出ようと俺や他に突っ掛かって崩そうと来たのだが、自分含め周囲が結託して袋叩きにした。
鉄製の棒で顎を狙い、足の脛を剣の鞘で打ち据えて多分砕き、鳩尾に抉る様な手甲の一撃。当分は病院のベッドの上が確定するような結託攻撃だった。
割と容赦が無かった……のだろうか?
いや、露骨に敵意を周辺に撒き散らす分には問題がない。まだ性質が良い。
その後、周囲にニコニコと屈託の無い笑顔を向けて『協力しましょう』とばかりに飲み物を渡そうとした奴が居た。
最初に渡された奴が疑り深く、他人から向けられた厚意をなんの躊躇いなく殴り飛ばせる奴だったのが功を奏した。
小さな携帯用コップに注がれたばかりの、お茶を入れて差し出そうとしている腕を的確に剣の鞘で捉えた。
腕が鞘の衝撃に負け、コップが跳ね、道端にコップごと中身が吹き飛んで道端にぶちまけられた。
熱湯でもないのに液体が泡立ち、湯気が立ち、嫌な音と共に液体が撒き散らされた小石や草木がドロドロに溶けていったのが見えた。
受け取って飲み干していたら毒杯が口から喉から溶かし落としていた。
拒否していたとしても、その時はコップの中身を相手の全身に飲ませていただろう、そうしたら終わりだった。
他人の厚意を受け取り拒否する勇気の無い奴は下手すれば死ぬ事があると思い知った。
敵意を隠して笑顔で殺意を向けてくる奴の方がよほど性質が悪い。
当然、これ以上何かをされる前に不気味なニコニコとした屈託の無い笑顔を容赦無く念入りに袋叩きにした。
そうこうしている内に、目的地のスバテラ村が見えてきてしまった。
邪魔をするか、このまま仲良く山分けか、団子の中身が腹の探り合いをしている中……
小賢しい探り合いなど滑稽とばかりに太陽が噴出し、団子連中の影が地面に伸びた。