実は既にあちこちに支店があります。
商人は町の琥珀が鏤められた広い道を少しだけ急ぎ足で進む。
その歩みに迷いは一切無い。町の設計図は頭に入っていたし、実際に完成した折に地図の精度を上げる目的も兼ねて実地を歩き回って町の構造を子どもの頃から住んでいた町の様に裏道から道ではない道まで知り尽くしていた。
そして、何より町の構造が非常に分り易いものになっていた。
元が更地で土地が広大だったという点を十全に利用し、曲線の無い道を縦横に通し、道幅を広く取り、人がどれだけ視界を塞ごうと道の先を遠くまで見渡して道に迷わないように、開放感を得られる様にと作られている。
自分の居場所と目的地を繋ぐ道のりを直線二本で地図上に描けると言えばその明快さは分かるだろう。
世界中の町がここまで分かりやすければ、道が広ければ、商品の運搬はもっとずっと楽だろうにと思いながら、道の中心に真っ直ぐ引かれた石板の線を追いかけるように町の中心部に向かう。
「遅くなってしまい申し訳ありません。」
謝罪を向けた相手は二人とも町の中心にあるものに向けられていたせいで商人の到着に気付けなかった。
「あぁ、イタバッサさん。いいえ、少し早い位です。村の皆様と準備をしている最中だというのに申し訳ありません。」
商人の上司がそんな事は決してないとばかりに丁寧なお辞儀を商人に向ける。
「いいえ、私は特別何かをしているわけではありません。今日もやった事は仕事の予定作りと仕事の割り振りに指示出し。今のところ良いトコ無しという有様ですよ。」
嘘吐け。この男、朝とは名ばかりの深夜からあちこち駆け回って仕事の最適化を行い、シェリー君や自称そこそこ天才が今日の準備に専念出来る様に根回しをしていた。
「なので、これからが私の本番です。お二人が派手に始めた後で私は追いつき追い上げ追い越しをすると致しましょう。」
やる気満々といった雰囲気。あーあ、荒れて吹き飛ぶぞ、物の価値が。
「では、追い越しが出来ないように、こちらは派手に打ち上げるとしようか!
今なら未だ細工のしようは幾らでもある……強度を上げればなんとか出来るか……な。」
ああ、荒れるぞ、こっちも。そして吹き飛ぶぞ、色々と。
「楽しみですね。」
「やれやれ、それで君の憂いが吹き飛ぶのなら、私は傍観に徹しよう。」
どちらにしろ、アレをやるなら半端な出力では意味がない。
徹底的な出力で、再現する気でやらねばならない。
ある者は己の二足で駆けていた。
ある者は馬を繰り、疾走した。
ある者は魔法を使い、飛んでいた。
ある者は己が魔道具で自爆とばかりに吹き飛んだ。
理由は完全に同一ではないが、この先にあるかもしれない未知に向かうという点で一致していた。
だから、必死で街道を進んでいた。ある程度の差はあれど、鎬を削るという表現がピッタリ当てはまる程。
お陰で狙い通りに事は運んでいた。
辛うじて経済テロ未遂。しかし直にやってしまいそうです。
ブクマといいね、ありがとうございます。モチベーションがお陰様で上がっています。