総決算は今夜
情報屋がホクホク顔で支払いをしている頃、情報屋の依頼主が何処で何をしていたかと言えば、当然、スバテラ村で仕事をしていた。
「そろそろですね。」
指定した時間を懐中時計で確認して直ぐに仕事に戻る。
ここで時間通りに事が運んだか、情報屋が金だけ持ち逃げしていないかとあれこれ考えても意味がない事を彼は知っている。出来るのはただ一つ。自分の商売という領域において自分の全力を発揮することのみ。
そうして懐に時計を仕舞い、目の前の戦いに再度向かう。
「料理担当の皆さんは調理に慣れがてら料理を作っておいて下さい。今は確実に火傷せずに、事故を起こさずに扱えることを優先して大丈夫です。失敗しても無駄にはなりませんし、時間は沢山ありますから。安心して作って下さい。」
普段作り慣れている筈の料理を少しだけ戸惑いながら作る『料理担当』と呼ばれた人々はそれを聞いて少しだけ慌てていた心を鎮める。
「接客担当の皆様は配布したマニュアルを見て、ロールプレイをして、最終調整を終えたら可能な限り眠っておいて下さい。難しければ目を閉じて横になるだけでも構いませんから。兎に角休んでおいてください。
今夜は多分忙しくて眠る暇が無くなるでしょうから、指定した時刻までに食事も済ませて下さい。あぁ、食事は料理組の皆さんに手配はしているので夕飯の準備は不要です。
時間になったら私は主にそちらに立つことになるので、困ったことがあれば何でも言って下さい。」
男はこの村の殆ど無い箪笥預金全てと人々の心に王手をかけていた。
商売という男の最高峰の領域で実力の証明はとうに終えている。
確実に得に導いてくれるという信頼の獲得もすでに終えている。
最早モラン商会スバテラ村支店と化した接客担当達は一糸乱れぬとまではいかないが、一個の集団としてある程度まとまった動きをして自分達の家へと戻っていった。
「医療担当の皆さんは、トッドさんの指示に従って下さい。今なら湿布と火傷用の軟膏の制作で忙しいと思うので手の空いている人もそちらへお願いします。」
この村で最も医学薬学に強いのは商人の上司とその協力者。次点で幽閉中のこの村の医者。そしてトッドだった。
すぐさまその順位を見抜き、一番目と二番目が切れないカードだと知るとトッドに打診し、快諾まで持っていった。
「ウチの建築担当の皆さんは大変申し訳ありませんが変わらず椅子とテーブルの準備をお願いします。」
商人のその依頼に対して担当達は沈黙したまま大工道具の打ち鳴らす交響曲と完成品で答える。
デザインに派手さや華は無いが、頑丈で軽く、表面がささくれておらず角も削ってある良品の一式が並んでいく。
「では、私もあちらの最終調整を見せていただくとしましょう。」
男は日も出ない頃から今まで一切座らず止まらず働き続け、そして何故か時間を経る毎に活き活きと仕事のスピードが上がっている気がする。
魔法である。
嘘だ、そんな魔法は存在しないのである。
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そして、ここまで読んで下さる読者の方々に感謝を。
久々に、つい。