開門スタート
必要なのは、時間を合わせることだ。
早過ぎてはいけない。
遅過ぎてもいけない。
足並みを揃え、ほぼ同時刻に、同じものを目撃させる必要が、群がるその光景を互いに目の当たりにさせる必要がある。
それだけが必要なことだ。
その先は既に揃っている。出来上がっている。足りない一つを手にすることで『成る』。
だから足りない一つを依頼したい。
そういう話だった。
話をする前に、既に十二分な代価は支払われていた。
資金的な意味で相場より多く、しかも先払いで支払われている。
そして、なによりやり甲斐があった。
脅す訳ではなく、プロとしてこっちを見て依頼してきた。
金で動かせると思って金払いが良い訳ではなくこれだけの価値があると確信して相場以上を出してくれている。
あの商人が有能かどうかは別だが、あの商人は良い商人だと思った。
だからその期待に応え、完璧に仕事をこなしてやろうと思った。
情報屋は全力でイタバッサからの依頼を遂行した。
酒場、商店街、裏通りの吹き溜まり、自称知識人の溜まり場、商人のコミュニティー………不特定多数の場所で情報を大量にばら撒き皆の意識がスバテラ村に向かうようにした。
そして、予め聞いていた門が閉じる時間から逆算して都市内で撒いていた火種が弾けて熱が生まれるようにした。
門は閉じ、弾けた火種は人を燃え上がらせ、生まれた熱は周囲に伝播し、しかし門は閉じてその熱は篭もって、そうして今、爆発寸前まで高まっている。
「絶景絶景……っと、もう少しで時間か。」
情報屋は閉まった門付近のカフェ、2階テラスで熱いコーヒーを飲んでいた。
何をしているかと言うと、眼下でやんややんやとやる人間を高みの見物だった。しかも、朝から昼過ぎの今までずっとである。
だが、それだけでもない。
「来たな。」
所定の時間が来た。門から大きな音が響き、急に扉が開いた。
同時に暴徒と化していた人々が叫び声をあげて、開いた門に雪崩込み、門の軋む音がここまで聞こえてきた。
やる気の無さそうな門番の男が慌てて制止しようとするが、焼け石に水。
勢いに負かされてそのまま門を抜けていく人々を見ていくしかなかった。
「あぁあ、可哀そうに。」
聞いていた話だと、この時間に門が開き、騒いで行った連中は夕方から夜になるそうだ。明かりの少なくなる頃にスバテラ村が見えてくるらしい。
「さ、仕事完了。招待されているが、この人混みじゃ死にかねない。
人が退いてから見に行くとするか……。」
男は朝から今までの間に飲んだかなりの数のコーヒーとそこそこの軽食を合わせた支払いに立った。
仕事が終わって懐事情が良くなっているお陰で支払いに向かう足は軽かった。