おあずけ
街道が閉鎖された理由。
それは炎上騒ぎの調査のため……ではなく、警備官の強い要請によるものだった。
『街道に指名手配中の容疑者が潜伏しているという情報があり、街に入り込まれて撒かれたくないから門を閉ざして欲しい。』
これだけ。そう言うだけ言って警備官達は閉じた街道の向こうに消えていった。
そして、そんな風に閉門した後で、こんな噂が流れ始めた。
「この前の火は隠れて魔法の研究をしていた施設が暴発してしまったのが原因らしい。」
「竜の卵が埋まっていて、それが孵って赤子竜が火を吐いたらしい。」
「あれは幻覚だろう。本当に火が出ている訳がない。」
「大魔法使いが怪物を倒すために使った魔法がここまで見えたんだ!」
「あれは俺が使ったんだよ。俺の魔法!俺の真の力が目覚……」
戯言、世迷い言、寝言、譫言、戯言、ふざけた妄言、デマ……一部真実を的確に言い当てているものがあったが、流言飛語の激流の中で真実は虚構に流されて掴む事は困難を極める。そもそも真実をそこに見出して辿り着く者がいない。
こうして、噂話は酒の肴になって酒の力で尾鰭がついて、愚の骨頂の誇張表現の塊になって、最後には飽きられて消える……のが本来の噂の在り方だ。
そう、これらの噂は当初、自分を賢者と思い込む人間達には鼻で笑われていた。
その中には件の火を見た者も居たが、魔法のある世界、これは魔法の起こしたまやかしだと思った者やもっと大きな魔法を見たことがあるもの、件の火よりも重きを置くべき事柄を抱えている者ばかりだった。
鼻で笑っていた。のだが、その噂に併せてもう一つ、巷の噂話とは違い、確かな情報筋から流れてきたものがあった。
『今、あのイタバッサが大きな仕事をしようとしているらしい』と。
『その大きな仕事はこの前の火柱と関係があるらしい』と。
『その仕事が成されれば莫大な利益と名声が手に入る』と。
『その仕事はこの先のスバテラ村で極秘裏に行われている』と。
その噂話は予め撒かれていた他愛も無い噂話諸共火が点き、爆発した。
爆風と飛び散る火の粉は周囲に爆発と炎をもたらし、更に大きくなり、心の内の一片の冷静さを愚鈍にさせて、人から判断力を奪い、熱狂させ、そして衝動のまま動かす。
事情を一切知らない者も、ある程度知る者も、調べ尽くした者も、集団に流されて動いていると何処かで思う者も、その力に動かされる。
そうして、その衝動の矛先はスバテラ村に向かう一歩手前で、門によって阻まれたのだ。
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