間接的被害者の門番の日記
そんなこんなで、自動で、手動で、この町の最終調整を行っていった。
作業は基本的に紆余曲折ありつつも許容範囲内の時間で収まり、そうして……
「「敷設完了!あとは試運転をして、本格的な運用の開始だ(です)!」」
自称そこそこ天才と見習い娘が同時にそう言って、作業は終わりを迎えた。
そして、それは課題の本格的な開始を、マイナスではなくゼロからの開始を意味していた。
ーとある門番の日記ー
『街道へ続く門を一時的に封鎖させる。だから門を閉めて閂をしておくように。』上司からそう命令された。
理由は聞いていない。聞いても仕事に変わりはないし、こんな閑職の人間の質問に上司は答えないだろうと思ったし、興味は無いし、面倒は嫌だったから。
だから大人しく錆び付いた蝶番を軋ませながらえっちらおっちら門を閉ざした。
主要街道ならばこれは大事。足の速い商品を持っている商人なら、捌くか加工するか、回り道を飛ばして突っ切るか考えないといけなかった。
旅の一座や旅人ならここで仕事をするか宿を取って留まるかを選ぶだろう。
だが、その街道沿いでは化け物が出ると噂されていたので、今はほとんど誰も使っていない。別の道だっていくらでもあった。
だから何の問題も無く、何も変わらず、この街は回ると思っていた。
こんな楽な仕事で金を貰えるなら楽勝で最高。閑職、島流し、出世と無縁の職場で可哀そうだの哀れだのなんだのとふざけた事を言っているが馬鹿馬鹿しい、同じ金が手に入れば仕事は楽な方がずっと良いに決まってる。生き甲斐?遣り甲斐?社会との繋がり?そんなもの仕事で得る必要なんてない。
楽勝最高!額に汗して仕事する連中を見てるだけで食える飯最高!残業や夜勤してる連中を尻目に帰宅する瞬間最高!それで結構金が貯まるの最高!
今日もそんな暇で最高な労働が続くと思っていた。
「いつまで待たせる気だ?」
「早く門を開けてちょうだい、早く!」
「おい押すんじゃねぇよ!」
「急いでるのよ!なんで止まるわけ?」
「なんで開いてねぇんだよ!」
「おいお前!さっさと門を開けないと承知しねぇぞ!」
近くにいた明らかに怒っている胸倉を掴まれて大声が耳朶を殴られ、唾を飛ばされた。
朝から五月蠅い、人が多い、あと息が臭いし唾が汚い!服が伸びる!鬱陶しい!
「おいお前!無視してんじゃねぇぞ!耳が聞こえない訳じゃねぇのは分かってるんだぞ!聞こえたらさっさとここを開けろ!」
耳が聞こえてるから無視してるんだ。それに、聞こえているなら開けろだなんて無茶苦茶だ。
上司は門を閉ざせという命令を撤回していないし、この汚いおっさんの言う事に従う義理はない。だというのに、俺が悪いとばかりに門の傍に殺到した連中がこっちを射殺す気満々で睨みつける。
なんだよ、昨日までここを閑古鳥の鳴く場所にしていたのはお前らだっていうのに好きにやって!
結局その日は面倒なクレーマーの相手をして、悪くもないのに謝らされる羽目になった。
最悪だ。