未だ灯り無き町
厄介事をもたらしたものに関しては、その厄介さに対する仕返しあるいは意趣返しという形で役立てている。
あの怪植物は非常に厄介だった。
矢鱈大きく頑丈で、その癖に柔軟で多種多様な動きをし、挙句に動物相手の牽制や制圧方法が通用しないという点は相手取る上で一般的な常識や前提を崩した上で前提を再構築する必要があり、それは先入観を無くして素早く物事を考える上で必要な技巧だ。
だから、その植物の副産物たる木材は今、スバテラ村郊外の……仮称スバテラ町の文字通りの骨子とさせて貰った。
あのガスは非常に混乱させた。
霧だと誤解し、怪物騒ぎに直接的に関連するものだと錯覚し、容易な事実を覆い隠して存在しない複雑怪奇を生み出した。想像力は物事を補ってくれるが下手な物を補って全容を歪める点は考え物だな。
だから、そのガスは燃料として使わせて貰う。
覆い隠していた要因から、明るく照らし見えないものを見える様にする灯火として。
出来上がってきた町に足を踏み入れる。
足元は無価値な琥珀で彩られ、道の中心だけ一段下がり、琥珀が彩っていない帯が伸びて、それらは町の全ての建物へと伸びていた。周辺にある建物は同一材料でありながら全く別の場所を想起させる程意匠が違う。にもかかわらずそれらは混沌とはしていない。
道幅は最も狭い場所であっても人がすれ違える幅。空気が滞留する事は無く、複雑に道が曲がりくねって迷いやすいなんて事もなく、建物の日照も十分。
今の外部からの評価はそれなりに良いという具合だ。
「静かですね。」
「当然だろう?今この町は誰も住んでいない無人の町だ。
荒れ果ててもいないが人の気配も無い不自然極まりない町だ。」
周辺を見回しながら散歩を続ける。地図は商人から当然渡されているし、家の設計図や間取りも全て手元にある。が、どれだけ正確であろうが一枚の紙きれの上に載せられる情報はタカが知れている。こうして見なければ解らない事は多くある。
「良い風ですが、お洗濯を乾かす時には飛ばされないように注意する必要がありそうですね。」
「モラン商会にはその手の商品もある。あの商人はその手の初歩的な利益の損失はしないさ。」
証拠が埋め立てられて、周辺の木々は伐採されて町としての空間は広がり、日中の街道から見たこの町はそれなりのものとして映る事になる。
その時、人々の記憶にある文字通りのゴーストタウンだったスバテラ村の印象は吹き飛ばす。
「万一の事態に備えての設備は……あぁ、ありますね。良かった。」
町のあちこちには即席の街灯もどきがあり、その下には人の背丈程の箱が設置されていた。
「さて、もうそろそろ自称そこそこ天才との待ち合わせの時間だ。行こう。」
「そうですね、楽しみです。」
人の気配が無い町を歩いて行った。
新作投稿しました。五月末までに完成する予定の童話です。
新しい童話を求められて半世紀以上前の刑事ドラマを参考にする奇行をやってみました。