変わっていく体、誰も探さない。
サンドイッチを食べ終えたシェリー君は眠りに就く。
明日も明日でやるべき事が沢山ある。ロクでもない事が沢山……だ。
スバテラ村の人間も夕食を終えて眠りに就く。
久々に商人がやって来て、やるべき事が作るべき物があって、遣り甲斐が生まれている。
モラン商会の人間は交代制で眠りに就いていた。持ち込んだ食料に、僅かとはいえスバテラ村からも貰い物があったお陰で悪くない食事を終えて、ぐっすりと眠っていた。
各々が各々の夜を、夢へ向かう。
そして……決して眠れない者もこの村には居た。
日頃の行いがいざという時に命運を分けるという事は多々ある。
『狼が出た!』と日々嘘を吐いていた少年は本当に狼が出て来た時に『狼が出た!』と正直に言ったが時既に遅し。信頼を失っていた少年は、命を喪った。
日頃から気の弱い両親を軽蔑して、自分がやる事には意味があるから口を出すなと昼も夜も出歩いて、数日帰らないことも多かった若人は、未だ帰って来ていない。だが両親は心配していない。それが何時もの事だと思っていたから。だから異常に気が付いていない。
全身が暴れている。自分の意志とは関係無く、激痛を無視して勝手に動いている。抵抗しようとしてもどうにもならない。
震えて、内側で何かが弾けて関節が外れたのに、相変わらず大きく激しく震え動く腕。
指先が何かを掴もうとして自らの拳を握り潰して、それでも尚掴めない何かを掴み取ろうと折れた指が蛇のようにのたうち回る。
足が空を蹴り、自分のもう片方の足を蹴り砕き、地面を蹴り、根を蹴り、立ち上がろうと文字通り足掻き、当人の意志に依らないその試みは足だけが動き、歪んだ上半身は背中を地につけて引き摺られて動いているという不気味な光景を生み出している。
「ぅ…………ぁぅ……………く…………」
それを見る者が居たとして、それを人とは思わなかっただろう。
全身が内側から押し広げられて、不自然に肥大化し続けている肉体。
内側から食い破ろうとする何かが肉の塊を押し破ろうと脈打ち動いているのが外からでも見える。
その痛みは想像を絶するだろう。全身が余す所無く脳を焼く程の痛みで浸されているのだから。
しかし、最初痛みを訴えていた男の口から洩れるのは譫言にもならない音だけ。
空気を震わせる喉もその内で何かが暴れまわって動きはしない。
そもそも舌が肥大化して動かないから言葉を紡げない。
助けを求めることさえ出来はしない。
捜す者は無く、助けを求める事も出来ない。
変わり終わるまで、誰も止めてくれない。
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