これをつくった奴と貴方様
飲み込んだそれに味はなかった。噛まずに、喉の奥に無理矢理押し込んだ。
タイ=コモチの懐に有ったにしては喉を通る感覚が冷たい気がして、大きな塊にしてはやけに呆気なく呑み込めた気がした。
呑み込んだそれを押し込んで、喉元を過ぎて、胃に落ちたであろうところで変化が起きた。
「げ…………ぅ………………ぉぇ…………」
身体から力が抜けて、その代わりに胃に激痛が走った。
異物を認識した身体はそれを危険と認識して吐き出そうとしているのに、そのための力さえ入らない。
あまりの苦痛に踠きたいのに、踠けない。
けれど、どこか安堵、確信、燃える思いがあった。
賢者の考えは賢者にしか解らない。
なら、自分には賢者の考えが解る。
これを作った奴は自分と同じように力があった。
これを作った奴は自分と同じように頭が良かった。
これを作った奴は自分と同じように自信が漲っていた。
これを作った奴は自分と同じように尊敬される人間だ。
これを作った奴は自分と同じように聡明で知性に溢れて皆を先導して愚か者だらけの場所で輝いて他とは違って凄い奴で……
あまりの痛みで地面に崩れ落ちる。激痛で顔が歪み、しかしどこか楽しそうに笑っていて…………
だから目は開かず、自分が独りだと気付けなかった。
だから痛みで自分の体がどうなっているかに気付いてもらえず、自分の胴の内で蠢く何か、その胎動には気付かれなかった。
「いやぁ、素晴らしいお方でした!」
モラン商会やスバテラ村の人々の視線の隙間を縫うようにしてタイ=コモチは村の外の街道まで来ていた。
おべっかを使っていた相手が苦しみだした時には既に、そのにこやかな顔のままでここに向かっていた。
街道沿いに馬が二頭。それを引くフードを被った若人が一人。
若人はタイ=コモチを見つけると直ぐに駆け寄って頭を下げた。
「お疲れ様ですコモチ様。如何でしたか?」
「あぁ、うん。適当に話を作って適当に唆したらあっという間に飲み込んでくれましたよ。」
先程までの人の表情を窺って人に付き従って賑やかし誉めそやす太鼓持ちの男はどこへやら。にこやかな顔がすぐさま消え、若人が差し出した手綱を受け取ると同時に馬に飛び乗った。
「すぐにここを離れますよ。モラン商会が大した脅威ではなくともイタバッサは敵に回すと厄介この上ない。
ここに我々が来ていた事が悟られる事さえ拙い。」
そう言って若人の準備が終わるや否や走り出す。
「コモチ様、一体誰に渡したのですか?」
「……さぁ。特に聞いてもいません。興味が無かったので『貴方様』と呼んでいましたので。」
「そんな……」
「依頼内容は包囲網を抜けて例の品物をスバテラ村の誰かに渡すこと。群れからはぐれた個体ならなんでも、どれでも良いのです。」
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