知性の樹の種
クアットはすっかり酔っていた。
自分を敬いも尊びも畏れもしない連中と違い、タイ=コモチは自分の価値を正しく評価している、と。
この商人にはそれなりに見所がある、と。
自分は矢張り敬われ、尊ばれ、畏れられ、憧れの理想の最高の存在だと思い込んでいた。
だから、忍び寄る厄災を自分から招き入れる。
自分の未来に起きる絶望を招き入れる。村の未来に起こる災厄を迎え入れる。
「で、タイ=コモチ。君は、何をしにここまで来たんだい?
この辺には今のところは寂れた村が一つあるだけ。言っておくけど、彼らには払えるものなんて何もないよ。彼ら自身には将来性も無い。僕だってあれらには本来価値は見出だしてないんだから。」
「いやいやいや、不肖私めがここへ来たのは貴方様へと是非お渡ししたいものがあって来た次第で御座いまして……」
揉み手をして、顔色を窺う様にチラチラと見ながら、これ見よがしとばかりに懐を探る真似をする。
「僕に?渡したい……物?」
「はいぃ。滅多に手に入らない品物ゆえ、盗まれぬ様にと細心の注意を払って最速で貴方様の元へと参りました。
ゆえに、この品物に関して他の輩の耳に入っては大変です。どこか、人気の無い場所で、そこで品物をお見せいたしましょう。
そんな場所を案内して頂けますでしょうか?」
懐を弄りながら周辺を見回して警戒する。
「ふぅん、君がそこまで言うのなら、仕方ない、良いだろう。ついて来るんだ。」
「はい、ありがとうございます。」
葉が全て落ち、枯れ木になったとしても幹や根が無くなった訳ではない。
森の端、他より少しだけ地面が低くなって、他より少しだけ大きな木が生えている。
地面から露出している根がアーチ状になって、周囲からは高低差で見え辛く、その上に地面との間に雨風を凌げる空間があった。
「ここなら問題無いだろう。さぁ、その渡したいものっていうのは何だい?」
「へへ、理想的な場所をありがとうございます。貴方様の聡明な頭脳のお陰でこれをお出しできます。」
そう言って再度周囲を警戒し、懐にあったものを取りだした。
「これは……何かの肉?違うな、なんだ……干した果物、それとも種?」
「ご明察でございます。こちらは種。知性あるものに更なる知性と力を与える知性の樹の種でございます。」
赤黒い心臓のようにも見える何かがタイ=コモチの手の中にあった。
「知性と力を与える種、ねぇ……。」
「はい、知性ある者が使えば素晴らしい代物です。
しかし、半端な知性を持って自惚れている愚か者が使えば身を滅ぼす恐ろしい代物です。」
「へぇ……。」
いいね、ありがとうございます。