そんなもの最初からなかった
クアットは平々凡々の凡夫……ではない。
鬼才天才……ではない。この場の鬼才天才は自称そこそこという枕詞を要求する発明家か、商売の魔王様か、或いは少女と共に在る『絶対悪』、のみだ。
独りで勝手に輝き出す才覚はなく、目を醒まさせる師もなく、狭い村で賢い風に装って、独学で魔法を学ぼうとして、使えるようになる前に『魔法を習得した』という壮絶な勘違いをしているただのガキ大将気取り。
ウノに筋力で劣り、ドーエルの器用さには及ばず、トーレーには腹芸で大敗し、そして努力と研鑽に向かう根気でシェリー=モリアーティーと比べるべくもない次元の違いがあった。
平凡どころか凡以下。そのクセに怠惰で傲慢。その力は平均の水準に届くことはなく、スバテラ村が閉鎖空間でなければ尊厳を踏みにじられても誰も庇わない程度の馬の骨。
だが、全くの非才とは言わない。人が人の完全上位になれないように、完全下位になれないように、他と比べて平均を上回っているものが僅かながらにはあった。
「君達が俺の言う通りに動いていれば上手く行くんだよ。
手足が命令通りに動かないでどうして上手く行くと思っているんだ?
文句があるなら先ずは僕が満足するように、自分が動いてみたらどうだい?」
言葉を向ける相手は泡を吹き始め、顔は真っ赤を過ぎて血の気が失せ始め、目が虚ろになって抵抗する力が無くなりつつある。
二人がかりで凶行を止めようとするが、怪我人二人では満足に止められない。
首を絞めている当人も大怪我をして腕の骨一本、綺麗にポッキリと折れているのだが、その痛覚は脳には、理性には届かない。
「皆、ちょっとはさ、僕の言う通りに従ってみたらどうかな?
大して考えもないのにさ、考えている人のことを否定するなんておかしいって、解らない?」
クアットが平均を上回るものが在るとすれば、自らの矛盾を気にせず他人に矛盾を押し付ける狂気と痛覚や理性といったリミッターが壊れているお陰で自分の肉体がどうにかなってもそれを無視して無茶苦茶な行動が取れるくらいのものだ。
遣り手が使えば使い途はあるだろうが、この莫迦者はそんな器ではない。
締め上げていたウノを地面に投げ捨て、肩で息するのを押さえ付けて、笑って三人に言った。
「じゃ、やろうか?けど皆そんな感じだし、やるなら……明日からかな?
さぁ、これから間違いなく忙しくなる。皆が僕達の方が正しいってことが解って、あいつらが消えて、村は昔よりもずっと良くなるんだ。」
首に紫色のアザが出来て、顔を真っ赤にした怪我人と、それを支える二人を見下ろして、不自然に曲がった右腕を振りながら、クアットはその場を後にした。
その目は濁りなく、迷い無く、輝いていた。
ブクマといいね、ありがとうございます。
彼の様なキャラクター、とても好きですよ。書く側としてね。




