3軒目だ
モラン商会は副会長だけが特別に忙しいというわけではない。
金庫の連中:商会の活躍次第。つまりはいつも忙しい。これからも忙しい。
3人組:常時外回りで駆け回っている。寮を用意したが放っておくとドアノブに埃が積もる状態。つまりはそういうこと。
ニタリ:防犯システムの管理責任者。商会の成り立ちが成り立ちだけあってこの立ち位置に代理で就ける者が限られている。
レン:要領が良く、巧みに人を使っているが複数の役職を兼任しているので人を使えなければそもどうにもならない。
キリキ:当人の資質が資質なだけあって働き者。体力が無尽蔵故に普段の働きが百人・千人力。他に比べて疲れてないように見えているが、常人ならば過労で全身が砕けている。
他の幹部も同様に自分の持ち味を活かして働き者。
そして……
イタバッサ:放置すると勝手に忙しくさせる。今は出張中。
そう、スバテラ村一つに相応の人材とそんな劇物を詰め込んだのだ。
「シズエさんは7番の基礎工事に回って下さい。えぇ、貴方のその設計以上に慎重で正確な仕事っぷりは基礎工事において今以上に力を発揮しますよ。
テリアさんは0番で壁や扉の加工をお願いします。今回の仕事は時間重視ですが、それなりの見栄えも必要となるのでその木工細工の腕は是非振るって下さい。
あ、ストーレさん。1・2・7と8の木材があと少しすると足りなくなるので今の内に補給をお願いします。その剛腕、頼りにしていますよ。」
イタバッサ本人は椅子を作ろうとして余すところなく廃材を作り出す才能に溢れている。
だが、この男は『商売』という枠組みに関しては知っての通り、八面六臂の人外。
『人材』という商品を余す事無く最高の価値で世に送り出すという『商売』をやらせればこれこの通り。
乾かす必要が無い大量の木材があり、この村が限界集落で自作に慣れているとはいえ、僅かな大工と素人集団、それに時々商人の護衛。それだけの人間しか居ないのにどういうことだろう?
家がもう建っている。
真っ新な、文字通りの更地だった場所に人々が集まり、数日で家を建てている。
屋根がある、扉がある、窓がある、普通の建築物には無い妙な箇所が幾つかあるが、歪みは決して無い。
「おぅ……次。」
仏頂面の棟梁が完成したものを後にする。
それを見ていた者が息を呑み、その光景に手を動かしながらしかし目を奪われる。
「速ぇ、なんだありゃ?」
トンテンカンと釘の音が五月蠅く聞こえた訳ではない。鋸が引かれる音が長く派手に聞こえた訳でもない。
しかし、いつの間にか家が出来ていた。
これで今日、3軒目だ。
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