こんなそんなでモラン商会は今日も回っている。
こんなそんなでモラン商会は今日も回っている。
「ニタリさん!見て下さいこれ!今回のお仕事の特別なご褒美です!レンさんからもらいました!」
興奮しながら取り出した菓子袋を顔の前に押し付けてくる。だが当然、瞼で菓子は噛めない。
「キリキぃ、何のつもりだぁこりゃぁ?」
菓子を押し付けられたまま、それがいつもの事だとばかりに菓子の向こうのキリキに問い掛ける。
「え⁉ニタリさんも頑張ったんですから!ご褒美は山分けしないとダメなんですよ?」
「お前が貰ったんだからぁ黙ってぇ、持ってきゃぁ、良いだろうがぁ。」
「それはダメです!これだけ貰って独り占めはダメなんです!前みたいに半分こしましょう!
それに、多分ニタリさん好きでしょう?コレ。」
そう言って押し付けていた袋からお菓子を一つ、摘み出す。ザラメをまぶした焼き菓子が次の瞬間にはニタリの口に押し込まれていた。
「ムゥグ……」
「ね⁉」
「……あーぁ、悪くない。」
「未だ有りますよ。どうぞ、半分こです。」
「キリキぃ、お前。よく俺の好きなモン、解ったなぁ。」
「???」
「なんだぁ、その妙な面ぁ?」
「ニタリさん。私、ずっとニタリさんとお仕事一緒にやってきました。
この商会で一番ニタリさんと付き合いが長いです。」
「あぁ、だからぁ?」
「何が好きか嫌いかくらい、私だってわかりますよ。いっくらニタリさんが色々隠そうとしても、私はわかるんですから!」
「そうかぁ、奇遇だなぁ。俺もお前が画面に映ってる友達に目がさっきからチラチラ向いてるの、俺は、わかるんだからなぁ。」
「ぎくっ!」
「ほらぁよ。周辺の見回りと、宣伝にぃ行ってこい。チラシと得物を忘れるなよぉ。それがある間は仕事だぁ。」
「へへ、ありがとうございまぁす。」
「気を付けて、行ってくるんだぞぉ。」「はぁい!」
キリキは笑って戦利品を持って駆け出した。
「レン、お前も手伝えよぉ。」
血涙が書類を汚さない様に上を向きながら書類に目を通す。
「だぁらやってるじゃないっすか!既に誤字脱字やら確実に戻しのヤツは弾いてるんっすよ。
それに、俺や他のメンツで出来る雑務は極力副会長室に持ってこないように手は打てるだけ打ってるんすよ!」
「ありがとよ……だがそれなら仕事を減らしてくれよ!」
「それは出来ないんすよ。この商会、知っての通り黒字っちゃ黒字っすけど、歴史が無いからコネが無い。だからイタバッサさんに頼りっ切りなんすよ!それじゃダメなんすよ。一人に頼り切った戦いはすぐに破綻する。ジャリスさん、わかってるでしょう!」
「俺がその前に破綻しそうなんだが?」
「こっちでもなんとか手は打ってるんで、耐えきって下さい。ジャリスさん得意でしょう?必死の状況からギリギリで生き残って最後にボヤくの。」
「レン……そこまで言われちゃ、お前の信頼を裏切る訳にはいかないな。」
「そう言ってもらえると助かるっす……とか言いながら『幻燈』で逃げようったってそうはいかないっすよ!」
「ぐぇえ!」
「散々逃げて、最後のとっておきの幻燈の魔道具を切る。で、喋らない偽物と自分を作るために二つも用意して逃走。ここで逃げ切れればそれで良し。
で、そこでも捕まったら諦めて仕事に戻る。それを見たこっちは相手が弾切れだろうと考える。
けど、戻った先。つまりはジャリスさんの仕事場に行けば音と光の両方を騙せる最高級の魔道具が隠してあると。
そこで自暴自棄に仕事するフリして逃げるって魂胆っすよね!解ってるんすよ!そんなこと!」
「なんでだぁ!」
「ジャリスさん。俺は傭兵稼業を始めてからずっとジャリスさんと一緒にやってきたっす。この商会で一番ジャリスさんと付き合いが長いんっす!いっくらジャリスさんがやろうとしたところで、俺の目は誤魔化せないっすよ!」
「なんでこんなに目聡いんだぁ!勘弁してくれぇぇええええええ!」
「ジャリスさんが俺を目聡くしたんすよ!観念するっす!」
レンとジャリスは苦い顔をしてペンを走らせ続けた。
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ちなみに、キリキちゃんの設定色々、幹部魔道具なんかも完成しています。
色々とえげつないことになりました。