地下・拘束・毒。でも味方同士です。
モラン商会の防犯意識は高い。商会の由来が由来なだけあって見られると困る物と事が多い。
そしてその意識の高さはそのまま防犯システムの精度に比例する。システムの構築者がそういった手合いのやることなすことを知り尽くしていることもあって堅い。
特に地下への侵入は困難を極める。盗みを生業としている精鋭が集団で襲い掛かったとて、扉一つ破れない。
それは勿論、外から中へと入れない防壁である。
そして、それは同時に中から外へ入れない監獄の塀でもある。
【モラン商会 地下】
「ぅ……」
波打つ水面のようなになった視界が徐々に静かになって水鏡に変わっていく。
「っ……」
同時に、全身の痛みで顔が歪む。
意識がハッキリとしてきた。そして、自分に何があったかを思い出してきた。
辺りを見回すと真っ黒で明かり一つない。目が慣れていないから何も見えない。
「俺は、仕事から逃げて、休みを、自由を掴もうとして、いきなり、体が動かなくなって、あれは……毒か?
ここは、どこだ?」
目の前が急に明るくなって、眼球が締め付けられる様に痛んで今度は目の前が真っ白になった。
幾度か瞬きをして、辛うじてシルエットが見えるようになった。
「そうっすよ。喰らわせたのは非殺傷制圧用の鎮静剤っす。」
シルエットの正体はレンだった。体の痛みで気付かなかったが、俺は金属製の椅子に座らされて手足を拘束されていた。
動こうとしたが、手足はビクともしない。椅子を引っ繰り返そうとも思ったが、ビクともしない。
「ちなみに、ここはモラン商会の地下っす。もう逃げられないんで諦めて欲しいっす。」
目が慣れてレンの表情まで解るようになってきた。笑っているようないつも通りの表情のようなその顔が非常に腹立たしい。
「レン……お前ぇ、一体いつ毒を俺に……」
毒は最初から警戒していた。追跡者連中の練度ではこちらの手足を折らずに拘束するのは難しいだろう。もし必要以上に手足を折ったとなると、拘束した後で俺に仕事をさせ辛くなる。
それは俺も相手も承知している筈だ。だからそれをプレッシャーにして逃げていた。
そして、奴らがプレッシャーに屈してこちらの動きを鈍らせてから狩りに来るだろうと思った。
だから手っ取り早く動きを鈍らせる事が出来る毒は一番に警戒していたし、毒を食らった覚えはない。だからこそ不思議だ。
「そりゃぁそうっすよ。だってジャリスさん、今日は毒喰らってないんすから。」
「あ?それはどういう……『喰らった』?」
明りに照らされたレンがいつの間にか眼鏡をかけて、そのレンズを光らせた。
「ダメっすよ、ジャリスさん。商会の窓を切れたまま数日間放置するのは。
幾ら緊急用格子があるとはいえ、切れてる窓はそれだけで盗人どもを呼び寄せる危険があるんすから。」
「数日前には俺の動きに気付いていた……のかよ。」
「そういう事なんで、逃げるタイミングを予測して予め食事に仕込ませて貰ったっす。」
「一手どころか最初っから俺は負けてたってことかよ……クソっ。」
ブクマして下さった方が増えました。しかもPVも高め。
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