二?狙?
ジャリスが何をしたか?
煙幕弾を放った後、先ずはとある弾丸を撃ち出すために銃身を換装していた。
腰の仰々しい見た目のホルスターに二挺とも銃を仕舞う。するとあっという間に換装完了。
空気の流れが変わるのを肌で感じながら銃を構え直して引き金に指を掛ける。
あとは煙が晴れ、襲い掛かってきた襲撃者に向けて引き金を二つ引いて、思い切りわざとらしく目を瞑っただけ、弾丸が何かに当たる必要は無かった。
放たれた弾丸は口径が大きいが、弾速が遅い上に貫通力や殺傷力が全く無いものだったが条件が揃った時の制圧力は高いもの。
弾丸の正体は少し特殊な爆弾。
弾丸が弾けると同時に閃光で相手の視覚を奪いつつ高周波で聴覚を奪うフラッシュグレネード。
目を瞑った動作に気が付いて閃光を対策した者は数人居て、目を瞑った者と手で顔を覆った者は居たが、音までは間に合わなかった。
成長を老化と表現する副会長は目だけ瞑ればなんの支障も無いが、成長を成長と素直に表現する追跡者の若人達は耳を塞がなかった事で平衡感覚を一時的に破壊された。
まんまと煙幕という障壁を破った事で油断し、油断しなかった者もその後の『目を瞑る』という動作に引き摺られて二重の攻撃には対応し切れなかった。
そして、老いた人の体が鈍くなるという考えに至らなかった。
「必死な相手と遣り合うのに裏をかくとか策を二重にするとかお前さん達は言うが、そんなものはどうでもいい。表だろうが裏だろうが一重二重三重だろうが突破されたら終わりで、表も裏も策も無くてもやれれば問題無い。
こっちは文字通り『必死』なんだよ……ハァ。」
過労で足腰が折れる様な断末魔を上げている中で街中を駆けずり回った。肉体は疲れているに決まっている。
そして、それ以上に休むために一対多数の集団戦を突破しなくてはならない現状に直面して精神が疲れ切っているに決まっている。
視覚と聴覚をやられた追跡者達は追ってこない。
ふらつくジャリスの手は、足は、頭は、心は、止まるように命令する。
「じゃぁ、ここで一息……」
先程まで味方が近くで動き回っていた。
そもそも静止の瞬間が無かった。
だからその瞬間は、逃亡してから初めて静止する瞬間で初めて巻き添えを心配しなくても良い瞬間。狙撃するには最高の瞬間だった。
それを逃す程狙撃手達は間抜けではない。
「……一息で仕留める。」
ジャリスの体が急に揺らぐ。放たれていた弾丸は道中で軌道修正など出来る訳もなく、虚しく肩と足を掠めて壁に吸い込まれていく。
同時にジャリスが構えた狙撃銃が火を噴き、若き狙撃手達の肩に命中した。
集団戦で消耗させ、疲弊し集中が途切れたところを狙撃で狙い撃ち。
とても良い判断だが、自分よりも経験豊富な狙撃手相手に使う手としてはあまりに素直過ぎた。
「さて、逃走続行だ。」
更なる追っ手を警戒して周辺を見回して……
「残念ながらもう時間っすよ、ジャリスさん?」
飽きる程聞いた後輩の声が聞こえた。
描写、間違っておりません。本当はこれ、二部で御目見えする筈だったのですが、我慢出来ませんでした。
そして先程我に返りました。何故私は新年度早々ブラック企業の戦いを書いているのでしょう?