世代の差が
無線から淡々と説明するように状況が伝えられていた。
自分は現場には敢えて居ない。ある程度の忠告はするが、現場判断と矛盾したら現場の意見を大事にするように言っておく。
自分が居ることで作戦立案や現場指示役に成り得る人材を潰したくはないし、そういったことが不得手な人材に考える事から逃げる理由を与えたくなかった。
これは一種の訓練実習。相手はあのジャリスさん。相手とするなら不足はないし、味方に致命傷を与えるような分別の無い人間じゃないから練習相手に丁度良い。
ここで得るものがあれば、モラン商会はより大きくなれる。
「お願いするっすよ、ジャリスさん。」
訓練はあと少し続くと思った。
「それはそれとして、逃がすわけにも行かないっすよ。」
訓練は訓練。だが、本来の書類仕事からも逃がしはしない。
『仕掛けてくるだろう』と思った。
直線で単調な動きをしたと聞いた段階で罠を確信した。
案の定、無線から聞こえてくるのは現状を理解出来なくて錯乱する声と煙への怒りの声。冷静になれという苛ついた声があるけれど、半数が呑まれた。
「敢えて敵を一同に集めたところで一網打尽。こうすれば煙幕の外側で俯瞰する手勢は少なくなるから決まりやすいと……」
遠くから見れば煙幕から飛び出してくる標的は簡単に捕捉できるが、中からだとそうはいかない。だからここで全員を煙に巻く……と考えてほしいのだろう。
煙幕は一度見せている。ならそれに対してこちらがある程度警戒している事は向こうも把握しているはず。なら、この手は多分、本命に見せかけた囮。
この状況でジャリスさんがやりたいことと言ったら……
「確実にフリーな状況で逃げたいからこの場で出来る限り全員を行動不能にして、追っ手に割ける人数を限りなくゼロにして完全に姿を隠すってところっすかね。」
だとしたら……
「煙を吹っ飛ばしたらその段階でアウトっすかね……」
商会の建物、屋根の上。仕事を一通り終えて湯気の立つコーヒーを飲みながら今まさに大立ち回りをしているであろう方向で立ち昇った白煙の柱が急に渦を巻いて霧散していくのが見えた。
「あーぁ、やっちまったっすね。」
そう口にした次の瞬間、遠くで光が爆ぜて、その光に遅れるようにして耳朶が痺れて頭を打ったような感覚が襲ってきた。
「ッ!エッグいことしたっすね……」
無線の音を最低限にしておいたのが幸いして阿鼻叫喚の地獄絵図を食らわずには済んだが、向こうの爆弾の余波がここまで届いてきた。
平衡感覚が揺らぎそうになったので未だ少し熱いコーヒーを喉の奥へと流し込み、大人しく建物の中へと戻っていった。