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青二才と生き残りの違い

 厄介で手強くて小賢しくて鬱陶しくて、苛立ってくる。

 どれだけ距離を詰めようとしてもあと少しというところで翻弄されていく。

 『攻撃を当てなくても構わない』と言われていたが、狙った攻撃が当たらないというのは歯痒い。

 でも少しずつ、ほんの少しだが少しずつ距離が近づいてきた。

 煙幕を破ってこちらの無線で合流した人員が増え、当番(・・)から帰ってきた人員が増え、少しずつ、少しずつだが頭数で逃走経路を誘導して、逃走の精度(・・)を削って追い込んでいた。

 相も変わらず巧妙で狡猾でしぶとく逃げるが、向こうは1人。乗り物に乗るか体力が無尽蔵でもない限りは長時間逃げ続ける事は出来ない。

 頭数の多いこちらがリレー式で追い詰めていけば、あるいは頭数が揃った所で総攻撃を仕掛ければ最後には勝てる。

 ここから先は持久戦になる。

 そして勝負は一瞬だ。




 人が徐々に集まってきた。

 先刻までは数人を適当に撒いていれば良かったが、今は十人単位で相手しなくてはならなくなった。

 絶えず動いて包囲網の形成を少しだけ妨害しながら死角からの攻撃にも警戒しなくてはならなくなった。

 だが、それでいい。

 最善は逃亡完了までこちらの逃亡を悟らせないことだった。だが、こうして逃亡が露見してしまった以上、次善の策は追跡者を振り切るのではなく追跡者を制圧すること。

 ちょっとやそっと振り切ったところでレンやコイツらはしつこく追いかけてくるだろう。

 そうなれば俺一人では逃げ切れない。すぐに数に物を言わせて捕まえてくるだろう。

 だから、追跡者を制圧して確実に徹底的に逃げる必要がある。俺を捕まえる手間よりも誰かを副会長代理にする方がずっと楽でマシだと考えるように徹底的に……だ。

 「ここからだ。」

 ここから先は捕まる寸前を駆け抜けながら自由へ駆け抜ける大博打だ。

 その勝負はあっという間に終わる。




 逃げる、追いかける。

 撃つ、避ける。

 撃つ、防ぐ。

 隠れる、見つける。

 隠れる、炙り出す。

 不意打ち、予期した反撃。

 反撃、反撃に対する反撃……

 状態自体は絶えず動いているが戦況は一切変わらない、そんな状況が続いていた。

 変化の無い状態が生む油断は厄介だ。理性が幾ら警戒していたとしても煙の様に隙間をすり抜け、気付かれる事なく心の奥底へとやってくる。

 それは吸い込んでも気付く事なく、吸い込む度に判断力を失わせ、弱らせ、気付いた時には動くことさえ出来なくなる……

 副会長が急に真っ直ぐ走り出した時、幾人かは反射的に好機だと追い詰める動きにシフトし、獲物を視界の中心に据えて笑った。

 幾人かは罠だと思ってそのあからさまな動きを無視して見に回り、険しい顔で突撃した連中を見送った。

 幾人かは追い詰める幾人かの動きを見て、それを追うように、あるいはフォローするように困り顔で動いた。

 副会長に向けられる幾つもの視線と感情。それに対して副会長は表情一つ変える事は無かった。

 傭兵時代の経験則として、こんな状況で感情を荒立てて見せては次の一手を見抜かれると知っていたから。


 視界が真っ白に染まった。



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