フレッシャーズにも捧ぐ鎮魂歌
四月一日なので……
「首尾はどうでしょう?」
「お陰様で邪魔が入らず随分と良いですね。
どうやら昨日は色々と手を打って頂けたようで、有難う御座います。」
「いいえ、対した事はしていません。それよりも、私は、何かお手伝いする事はありますか?」
「今のところは。ただ、今から商会に色々と依頼をするのでその後でお力添え頂ければと思います。多分、忙しくなりますので…………」
窓ガラスから、光が射し込む。
外では少しだけ冷たい風が吹いているのか僅かに吹き込み、身が凍りつく様な気がする。
だからこそ、体が動く、意識が未だ保つ。
一歩を踏み出せる。
こっそり用意させて隠し持っていた硝子切りで人一人が辛うじて、自分か自分より小さな者しか抜けられない穴を窓に開けておいた。
前回の逃亡時は硝子を破って逃げた時にその音で気付かれてしまった。その反省を活かして、強度が上がり、蹴破れなくなった硝子窓から敢えて脱出するために切った。
明け方。人が最も少なく、発見までの時間が稼げる。
その間に逃げる時間を稼げる。
「モウ、ショルイシゴト、ハンコ、ヤダ。」
切なる願いを込めて、完全武装し、切り取った窓を外して、外に出る。
久々の外へ、足を踏み入れる一歩目。
『緊急事態!脱獄者有り!至急捕縛せよ!』
耳に着けていた商会の共通無線からけたたましいサイレンと共に男の声が聞こえた。
声の主は傭兵時代からの付き合いの後輩にして有能な秘書、レンだ。
俺の他に『脱獄者』なんて呼び方をされる奴は、この商会には居ない。要は俺の隠密逃亡計画の破綻が告げられた。
「レンンンンお前ぇ!」
怒りを口にしながら迷わず窓枠を蹴って外へ飛び出す。それと同時に窓枠から鉄格子が弾丸のように飛び出して窓を塞いだ。
一瞬でも迷えば鳥籠の中。辛うじて一手分速かった。間に合った。
だが、これで終わりじゃない。
着地までの時間が長く感じられる。
「クソっ!」
右手の人差し指が引き金を引く。その引き金は改良されて最早別物となったウィリアム・テラーのそれだ。
片手で扱えるようになった銃口の向けられた先は目の前の地面……ではなく商会の壁や背後の空。
別物となったウィリアム・テラーは弾丸を使い分ける。
弾丸が壁や上空で爆ぜ、周囲を赤、青、緑、黄色……様々な色彩へと染めていく。
周辺を散々カラフルにした後に着地して、速度よりも足音を消す事を優先して街の方向へ走っていった。
俺は今日こそ、逃げてやる。逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて、逃げて休む!今日こそな!
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そのお礼にこれを出すのは……色々とごめんなさい。