虚勢張り
健康的な朝食。
談笑し、美味を分けあい、不吉や不幸や現実を一時忘れた光景。
しかし、そんなものは何時間も続かない。
「ふぅ、ジテンの分までは食べられなかったな…………」
小一時間談笑し、食べ、スプーンを置く。
眠っている自称そこそこ天才とシェリー君を見て一言。
「あんまり、頑張りすぎないように……ね。」
そう言い残してすぐに眠りについた。
「…………そちらこそ、無理はだめですよ。」
椅子から滑り落ちる寸前にシェリー君が完全に力の抜けた肢体を抱える様にして支える。
命に別状はない。が、消耗して深い眠りについていた。
あの置き土産の肥料にされかけて、その辺の村娘が直ぐに元通りな訳はなかった。
「その言葉。君が言えた道理ではない事を、自覚していないとは言わせない。」
「……えぇ。」
「ここにはモラン商会、自称そこそこ天才の発明家、一応だが村の人間、そしてこの私がいる。
自分が一人だと思わないことだ。
自分がただ一人でこの状況をひっくり返せる……なんて自惚れないことだ。」
「勿論です。」
「私が君に教えた力の本質的な使い方は、人を変えるものだ。
世界を大きく変えたり、自分を人を越えた怪物に変えるなんて考えないことだ。」
他人を変え、世界を変え、そうして自分を巨人の肩の上に立つ巨人の傀儡師《支配者》に成れなくはないが…………ね。
「そうですね、残念ですが…………」
君が悪に成ろうが善に進もうが、私はそれを是としよう。力に成ろう、共に在ろう。
だが、私が力を貸すのはシェリー=モリアーティーという無力な少女にだけだ。
そこから外れたら、自覚の無い馬鹿げた破滅願望に答える理由は、無い。
自称そこそこ天才の分の食事をテーブルの中央に寄せ、近くにあった清潔な布を被せ、二人分の食事の後始末を終えて家を後にしようとした。その時だった。
「私は、大人だ。」
起き上がった自称そこそこ天才が立ち上がり、そう言った。
「『不甲斐ないことに』という枕詞を現状では付けざるを得ないが。」
目が虚ろで、呂律は回そうとしているが回っていない。意識が未だ朦朧としている。
「それでも、大人は君達を、子ども達を守り導くために居る。
けっして、死地においやり、くるしめるためにいるわけでは、ない。
信頼出来ないのかもしれないが、きみの力に、なりたいと思って……る。」
糸の切れた操り人形のように地面に落ち、る前にシェリー君が抱き抱えて事なきを得た。
「その言葉だけでもう、私は力を貰っているのですよ。」
改めて自称そこそこ天才を寝かせて、シェリー君は『家』を後にした。
来年度もよろしくお願いします。




