睡眠不足には気を付けよう、教授との約束だ。
寝坊、して欲しかったのだがね………………
「おはようございます。」
招かれざるゲストを迎えた翌朝……正確に言えばもてなしも今日の事だが、その数時間後には自称そこそこ天才の『家」の一室にて、シェリー=モリアーティーはいつも通り目覚めていた。
「あぁ、おはよう。」
『睡眠時間を削る』これだけはやってはいけない。次以降のパフォーマンスが下がる上に次に望む機会が減少する。
それは教授との約束だ。
「では、今日は棟梁さんの仕事を様子見しつつ手伝い、その後はイタバッサさんとの打ち合わせ、そして、残った時間で地下施設の……周辺調査をいたしましょう。」
先日の地下施設は未だ稼働中。しかし、周辺の霧は徐々に薄くなっている。
あの炎上の痕跡も嗅ぎ付けられると厄介だが、こちらの方に目を付けられる事も拙かった。
誰であれ、あれを知る人間が現れる事は非常に拙い。
「サンドワームのホースの調子を確認するとでも言っておくといい。かの自称そこそこ天才もそれで一先ず納得するさ。」
「そうですね、そういたしましょう。」
「やぁおはよう、そして動力の安定供給により、調理器具一式が復活した!」
自称そこそこ天才は挨拶もそこそこに、少しだけ充血した目を見開き、両手を大きく広げて喜びの声を上げた。
「……おめでとうございます。」
あぁ、解るとも、その困惑が。
この状況下で、朝から分別ある大人が調理器具一式に燥ぐ様を見せられるのは、信頼があったとて困惑する要因になり得る。
「勿論、家の修復も順調に行われている。というより、調理器具はそのついでに行われたというべきだ。」
睡眠が欠けるとどうなるかを目の当たりにしている。
周辺には散乱した書類の数々、魔道具の部品、そして茶色の沈着したコップ。
その中で笑う男の様は警備官が見れば話しかけられる事安請け合いの有り様だった。
「そして勿論、彼女のリクエストもあった訳で、私としても生活のクオリティーを上げることこそが快方に繋がると考えた。」
にっこりとシェリー君に微笑む。とはいえ、寝不足で興奮気味の有り様なので『素敵な笑顔』というよりは『博打狂いの熱狂している表情』が近い。
しかし、それはシェリー君の表情を明るくするに十分なものだった。
「あー……寝起きでいきなりこの上がり様、ちょっと頭痛いから止めてもらえないかな、ジヘン……」
元から気怠そうな表情と声をしていたが、更に気怠そうで血色の悪い顔、そしてハリのない声。
しかし、壁を支えにして孫娘がシェリー君の目の前に現れた。
「オーイさん!」
例の種子に喰われかかった孫娘が意識を取り戻した。
寝不足、ダメ、ゼッタイ。