空白の場所の動き
扱いは難しいが頑丈で安価で大量の木材が、ある。
最低限、村を外と繋げるためには木々の伐採が必要で、結果的に残ったもの、出来た建材を放置する手はない。
さぁ、道を拓こう。そして、招き寄せた人々をもてなす家を、自分達の安らげる家を作ろう。
何故出来たのか、どうやって出来たのか、急に出来た上にその出現理由も不明瞭だが、広大な平地がある。
本来、この森の土地の権利は村には帰属していない。が、これを見越した商人は既に手を回していた。怒りを敢えて買い、この場所の権利をタダでせしめたのだ。
これにより、ここで堂々と建築する事が、この後のこの場と、この場で得られる利益と、この場で発生するあらゆる権利を主張する事が出来る。
そして、一度それを許可した当人はこの後何が起ころうともその約束を無かった事にはできない。
それが、当人の口から発せられた言葉であると、誰よりも当人が自覚しているからどうにもできない。
由来不明、正体不明、用途は明確にロクでもないことだが、間違いなく上質なエネルギーがそこにはある。
吸い込めば当然の如く酸欠をもたらすが、それ以上に人々に温もりをもたらす。
使えるのであれば使わない手はない。
そんな訳で、建材と土地があれば最低限住居が建つ。
元々アクセスは良好。人はこれから来る。その後に必要なものは当然、留めるための場所。
元々あった建物は廃墟で不格好。客用とは言い難い。改築も考えたが、それでは都合が悪い、足りないのだ。
ちょっとやそっとの場所に人を集めたとて、どうにもならない。だから、鮮烈に人の脳に衝撃を叩き付ける必要がある。
それが記憶に残り、悪評を掻き消し、植物の種子が弾ける様に拡散させていく必要がある。
故に、新しく築き上げる。
記憶に残り、この場所が化け物の棲み処ではなく、最先端を征く場所であると刻むように。
さぁ、ここから先、この村は、モラン商会は、シェリー=モリアーティーは、そしてそれ以外のものも一層動き出す。
「…………………やるぞ。」
棟梁の仏頂面が更に仏頂面になる。
長年働いてきた者にはそれが仕事の時のいつもの表情だと解った。
(やるぞ)
血こそ繋がりがないが、絆で繋がる娘はいつもの表情とは違うと思った。
(いつもよりずっと難しそうな顔をして、でもいつもよりもずっと楽しそう。)
大工道具を手にした者達がこの動きの先駆けだ。
予め描かれていた予想図を追う様に、建材が、釘が、人が、動いていく。
この村が、生まれ変わるその過程を、目撃している。