働いて作ろう
木材を割る。子どもの頃、大人達が必死にやっていたその作業。
最近はそもそも住居を建てる機会がなくてこの作業をやった事がなかった。その面倒さは身を以て知っている訳ではない。
だが、非常に頑丈で刃物でうっかり叩きつけると刃が欠けるその無駄な頑丈さを知っている村の人間は既に憂鬱な気分になっている。
非常に面倒。その上刃物の消耗が激しい。何より体力が奪われる。
費用対効果という観点で、無駄な努力なんて非常にやりたくない。
そう、思っていた。
「切れる!切れるぞ!」
村に放置されていたお世辞にも切れ味の良いとは言い難い鋸。それが街道に程近い場所に立っていた枯れ木に食らいつき、切断しようとしていた。
当然。使い手は歴戦の棟梁ではなく、村の人間だ。
「……………次。」
「無理に太い木は切らずに放置して、切れそうなものの幹を叩いて、音の違う場所から刃を入れて切って下さい。そうするとうまくいきます!」
数人を前に棟梁さんが木槌で木を叩く。そして、音の違いを聞かせて今度は鋸で切って見せた。
最初は魔法か何かかと思ったが、使い手は村の人間。そんな事はない。
それを見ていた皆が自分もやってみようと近場の木々を叩き始めた。
あっという間に木々が倒れていく。
今まで出来ないと思っていたものがいとも容易く出来る。
その快感が人の心に火を点ける。
しかし、これは遊びではない。建築部門の仕事の手伝いだ。
鋸の数に限りはあるし、何より建築は木々を伐採するだけではない。
「他の人達は私達と一緒に来てください!」
幾人かのモラン商会の人間が監督として残り、鋸を持たない村の人間とモラン商会の人間が一緒になって森のほうへと進んでいった。
自分はそちらについて行った。
慣れた手付きで仕事を始める。
モラン商会の人間は淡々と、それが当然だと言わんばかりに馬車から満載の建材を下して地面に広げた革シートの上に積み上げ始めた。
昨日の内に近辺の木材は加工されていたらしく、かなりの量が積まれていく。
しかし、こちらはそうもいかない。唖然としている。
当然だ。こんな場所に何で木材を広げるんだ?ものの見事に、何も無い場所に。
ここは多分、火柱が上がっていた場所だ。地面は灰色で、あちこち炭や煤で真っ黒な尖った石が転がっていた。
本当に何も無い。木々が無く、空が広がっている。
建築部門の棟梁がここに来ていて、木材を広げ始めて、目の前には広い土地があって……何をする気が解るが、果たして正気だろうか?
「これからここに家を建てます!しかも沢山!」
狂気じみていた。
ブクマといいね、ありがとうございます。