義娘が来てから仕事が円滑になったそうな
気が付くと、椅子に座らされていた。
「ふぇ?」
何処からか間抜けな、声とも呼べない気の抜けた音が聞こえた。
音の主は自分だった。
「………………」
内で火が煌々と燃えるランプが後ろから伸びてくる。内で火が燃えて、空気を伝わり熱が届けられる。
振り返るとそこには仏頂面。今まで以上に極まった鋭い目と仏頂面で睨まれた。
炙られるのか?
焼かれるのか?
拷問だろうか?
熱されたランプの表面を押し当てられて、じっくり焼かれる。
肉の焼ける匂いがして、痛みで悲鳴を上げて、それでも押し当てられ続けて、情報を吐くまでそれが続く。
吐きたくても知っている情報なんて無い。知っているのは商人が臨時で人を雇いたいという事と、それが村の為に、自分達のためになるらしいということだけだ。
だから、拷問なんてお門違いだし、そんな価値はない。
あぁ、でもそうすると拙いな。喋らせようと幾ら拷問してもこっちには話せる事が無い。
そうするともっとランプを押し当てられるかもしれない。眼球を焼かれて文字通り目玉焼きにされるかもしれない。そうしても話を出来ないから……どうしよう……
走馬燈が巡る。
それは現状を打破するための可能性を過去に見出した本能が脳を全力で稼働させている証左かもしれないし、もうすぐ見られなくなる思い出を懐古している諦観の表れなのかもしれない。
そうして走馬燈を味わって、沈黙が続いていた。
「いたいた、とう……棟梁!」
ここに来て二人の沈黙を破る闖入者が到来。
後ろからやって来るので姿は見えないが、女の子だろうか?
「………………早い」
ありったけの非難の感情を詰め込んだところでここまで怖い一言は出て来ない。
足音を響かせて沈黙が再度やってこないようにとやって来る女の子を多分、睨み付けている。
「棟梁の方が早いですよ。いっつも遅く来る様に言いますけど、棟梁が先に来て仕事しちゃうと皆恐縮しちゃうし、私は棟梁の仕事の様子を始めの方から見られないし、困るんです。」
「…………………違う。……………………掃除だ、寒いから寝てろ。」
「私は弟子入りしてるんですよ。子ども扱いして、甘やかさないで下さい。
師匠なんだからもっと厳しくして下さい。」
「……………………ぉぅ。………じゃぁ毛布。」
「あぁ、そちらの方、寒そうですね。今持ってきますね……って、大丈夫ですか?」
視界に飛び込んで来た女の子は顔を見て吃驚した表情を見せた。
どうやら、物凄く蒼白い顔をしていたらしい。
「……………寒そうだ。」
どうやら、拷問や火炙りをされそうになっていた訳ではないらしい。
義娘は割と出来る娘なのでしっかり翻訳してくれます。お陰で仕事が捗っているのです。
義娘、割と、大事。