棟梁のディスコミュニケーションの典型的な例
ピノコニーと2015年の新宿で学園生活を送りに行ってきます。
火を点ける。
普段ならば焚き火をするところだが、今回は燃やせるものが大してないので代わりにランプに火を点ける。
中の燃料が燃えて、周囲の刺す様な空気が和らいでいく。
この辺りの木々は何があったのかは知らないが、何故か水分が抜けて萎れていた。
しかし、水が抜けてもなおその身は堅牢で、生半可な火なぞ何するものかとばかりにそこにある。
萎れた木を幾つか試しに加工した。
扱いはこれまでに扱ったどんなものよりも難しいが、扱い切れれば文字通りこれ以上の逸材はない。
萎れた事で乾かす手間が省けて丁度良いくらいだ。
人手はある。
釘、金槌、鋸、鑿、金尺……道具は揃って手元にある。
村の人間からの期待がある。村の人間には必要なものがある。
ここまでお膳立てされて失敗したとあっては言い訳の余地無く腕の未熟さがその原因になる。
失敗は許されない、決して。
とは言っても、この男に端から仕舞まで失敗する気は無い。
男は大工で、玄人で、無言で無愛想で、しかし結果だけは有用なものを残してきた男だから。
しかし……問題は出鼻を挫く。村の男手が手伝いに来た時にそれは起きた。
「アンタが…造ってくれるんだよな?その……色々と。」
間の悪い事に棟梁カーペン=トーリョーと顔を合わせるのが今日初めてという男が最初に到着した。
「…………ぉぅ。」
そして、その場には無口で不愛想で仏頂面の男しか居なかった。
「…………俺は、何をすればいい?」
喉が強張り、息が詰まる。心臓がドクドクと早鐘と警告をする。
一体、何をしてしまった?
自分がこの棟梁さんと出会ったのは今日が初めて。しかし、話は色々と聞いていた。
何故かこんな村にやって来た大商会お抱えの凄腕大工だと。
この辺りの頑丈極まりない木材を易々と切り、削る剛腕の持ち主だと。
非常に気難しく気に入らない仕事は一切受けない人だと。
決して、怒らせてはならないと。
俺は、何をした?
男は噂話を話半分で聞いていなかった。
確かに、目の前の大工は『こんな村にやって来た』というのは事実であるが、凄腕ではない。少なくとも本人はそう思っている。
確かに、モラン商会所属で専属である大工であるが、未だモラン商会は大商会というにはあまりにも小さい。大事の渦中にある商会ではあるが。
この辺りの頑丈極まりない木材を易々と切り、削ったのは知っての通り事実だが、それは剛腕由来ではない、技術由来だ。最も、大工なので屈強ではあるが。
気に入らない仕事は受けないが、それは順番抜かしをしようとした者の依頼を受けなかったという話だ。
決して、怒らせてはならないという話だが、これは何処の誰にでも当て嵌まる事柄だ。
そんな訳で、男は致命的な勘違いをしたせいで怯えて震えていた。
寒さでも震えていた。
ブクマといいね、慣れない表記で見逃していましたが、物凄く増えていました。有難う御座います。