逃げる、保護される、閉じ込められている
馬車内部を、見渡す。損壊は、無い。
手足を少し、動かす。二本ずつ、計四本、しっかりと、自分のそれが、付いている。
体の節々が、痛いが、それは、致命的な危険信号の、それではない。
何をされたか、誰にやられたか、検討も付かない。
しかし、襲撃されたのは、確かだ。
「何が、起きた?何を、された?」
襲撃されて、大事無し。
殺す事が、出来た筈だ。
拷問する事が、出来た筈だ。
生かして放置する筈がない。何かが、ある。
困惑した頭で、延長戦術騎を、再起動する。
外の様子が、知りたい。何より、延長戦術騎の状態が、知りたい。
しかし、起動しない。
反応は、近くにある。しかし、延長戦術騎、もたらされる映像は、真っ黒。しかも、動かしても、反応が悪く、動かない。
「どういう、ことだ?」
全機が、破壊されていない。にも関わらず、反応がなく、うまく動かない。異常事態だ。
この状況で外に出るのは危険だが、延長戦術騎が動かない以上、やるしかない。
馬車の扉を開けて外に出た。
「どういう、ことだ?」
自分が、馬車を隠した場所は、忘れていない。あの村近くの、雑木林の中、迷彩模様の布で、覆い隠していた。
それが、今、自分は、街道の、道の、直ぐ傍に居た。
馬車の、傍らには、迷彩柄の、布の、包みが置いてあった。
「………ッ!」
それが、動いた。風に煽られては、いない、生き物が突いた訳では、ない。
「どういう、事だ?」
その包みを、恐る恐る解くと、中には、延長戦術騎が、子どもの、玩具箱の、中身の様に、乱雑に、包まれていた。
そこには、燃え尽きた、何かの灰が、そして、形を残した燃え残りが、振り撒かれていた。これでは、カメラは、機能しないし、動きもしない。
「……………………撤退しなければ。」
馬車を繰り、撤退する。この状況は危険だ。細心の注意を払い、逃げなくては……
自由な翼で空を飛んでいる様な心地好い気分だった。
鎖に繋がれながら空を飛び、最悪な気分で空から落ちて、そんな気分だった気がするけれど、今はそんな事は無い。
晴れやかに、私は空を飛んでいる。
「気が付きました?」
手を伸ばして雲に触ろうとして、私の事を不思議そうに心配そうに覗く男の顔が見えた。
「大丈夫ですか?」
「………誰?」
目が覚めると私は多分地上に居た。
「どうするどうするどうするどうする⁉クソッ!」
八つ当たりで先刻まで自分が座っていた椅子を蹴り上げる。
椅子は地面に固定されていて微動だにせず、蹴った自分が憤怒に比例した激痛で地面を転げ回る結果に終わった。
「ああああああああああああああああああ!」
その声が痛みなのか絶叫なのかは解らない。
男は怪物に荒らされた部屋の中を転げ回っていた。