困惑するは謝罪の幻聴
潜入の途中、何かが動いた気がして、迂闊にもそちらに目を向けてしまい、気が付けば首筋に何かを刺されて、そして……
「……謝罪?された?」
あの時、意識が落ちる前に、確かに『手荒な真似をして申し訳ありません。』という声が聞こえた。鈴の音の様な少女の声がした……気がした。
そんな馬鹿な。ある訳がない。俺を気絶させる何かが人だったとして、そんな手荒な真似を躊躇い無くやれる人間が謝罪?馬鹿な。
笑う。自分の考え方があまりにも荒唐無稽だったから。
そして我に返って更に大笑い。荒唐無稽だと笑った自分を笑う。
こんな馬鹿げた状況で荒唐無稽の一つや二つで笑っている自分を笑った。
夜闇に紛れてスバテラ村付近の手入れがされていない森を歩いていた筈の俺は今、何処に居るか?
街道沿いに居るのだ。街道沿いの何故か踏み潰された草むらの中心で、俺は先刻まで日に照らされて呑気に眠っていたのだ。
笑わずに居られるか?謝罪なんて幻聴を笑う以上に笑えるだろう?笑える訳がない。訳が解らない。
森の怪物がやった?馬鹿か。怪物さんが俺を気絶させてこんなところまで送り届けてくれた訳がない。一体どういうことだ?
「止めだ。」
困惑する頭を一度空にして一度立ち上がる。錯乱した頭で考えても無駄だと知っているから。それなら一度考えるのを止めて最初から考え直した方が、あるいは何も考えずに突っ込んだ方がマシだ。
そうして立ち上がって、自分から何かが落ちたのが解った。
「なんだ?」
潰れた草むらの中に落ちていくそれの正体を空中で捉えることが出来なかった。が、草が潰れていたお陰で、落ちたものが硬い材質だったお陰で、落ちた先が何処なのか検討がついた。
「小石か……?」
摘まみ上げたものを注視して、それが一体何なのか解って、思い切り投げ飛ばした。
同時に走り出す。ここから直ぐに離れる必要がある。一刻も早く。
体が、とても、痛い。
あの、阿呆共が、低能で、考えられなくて、使えない癖に、他人の言う事も、聞けない、無能共が。
私が、圧倒的に、有能だ。なら、私に、将の座を譲り、自分達は、私の、手足の代わりに、なるべきだ。
それを、否定して、集団で袋叩きにして、私を、追い出した。
あんな奴等、不要だ。『私が、無能を手足にする』ではなく、『私が、小さな私を、手足にする』方がもっと、ずっと、良いに決まっている。
「はっ!」
昔の話だ。もう、その話は、終わった話だ。
しかし、体の痛みは、違う。今の話だ。
調査の最中に、延長戦術騎の一部に、異常が見られ、それを、確認しようとして……
「謝罪?何故?」
原因を、確認しようとして、『無礼を致します。』という声が、聞こえた、気がした。
そんな、訳がない。