素敵な代物(勿論皮肉)
実に素敵な代物だ。
『幻燈』で見えなくなっているが、馬車の上部から強風が噴出される仕組みになっていて、助走無しでもそれに対応した翼があれば空へと羽ばたく事が出来る。
飛んでいる輩の場所は内部でモニターされて、現在位置が映し出された地図上に赤い点で示されている。その経路は目的地までの最短距離を外れて飛んでいるのが解る。
そして、当然のようにマイクがあり、音声のやり取りも出来る事が解る。
最後に、これを素敵な代物足らしめている電流装置。
黄色と黒の警戒色に塗られたレバー。ガラスに覆われ、他に比べておどろおどしくものものしい見た目で目立つそれ。
付近にあった装置を操作し、そのレバーを引いた結果を調べるとまあビックリ、なんと、空を飛んでいる輩の発信機から高圧電流が流れて空中で燃え尽きるのだ。
うっかり逃げようとしたらレバーを引く。すると飛行用の装置諸共人間が燃え尽きて証拠隠滅となる。
あるいは上空から暗殺を仕掛け、しくじれば死なば諸共……とでも考えていたのかな?
『コンナモノヲヒトニツケル。ソノイミガワカッテイルノデスカ?』
こみ上げる怒りで口調が元々のそれに戻りつつあるシェリー君。今の君は『幻燈』を見破り、ドアを力で抉じ開け、人を瞬時に締め上げる謎の存在だと忘れていないかね?
「解らないとでも思ってるのかよ……。」
鼻で嗤う。明確な侮蔑だ。
「空を飛んで役に立つものを持ち帰るからあれは生かしている。もしそれが出来なきゃあいつに価値は無い。喋らずともスーツの秘密が他に漏れる危険性は潰さないとな。」
『ッ!アナタトイウヒトワ!』
『価値が無い』
そこに見えたのはあの学園の連中が常々抱いている傲慢。
自分達は価値あるものと勘違いし、それ以外をまるで価値の無い代物で自分のために役立ててやる事を光栄に思えと言わんばかり。
醜いを通り越して最早嗤えるアレだ。
まったく、何が違うというのだ?
貴賤なぞまとめてすり潰してその辺にばら撒けば等しく死体になる程度の差だというのに。
怒りと理性の葛藤がシェリー君の中で行われている最中、それは起きた。
小さく警報が鳴った。
装置に取り付けられていた赤いランプが点滅し、空飛ぶイカロス君の位置を示している点が点滅を始めた。
『ナニヲシタノデス⁉』
男が嗤う。ケタケタと馬鹿にするように嗤う。
「そこにあるのはあくまで緊急で装置を作動させる場合にのみ使われるんだよ。
そうでなくとも俺が操作を止めるか、アイツが直ぐに戻ってこなければ破裂するようになっている。」
『ソウサノサイカイヲ!』
「嫌だね怪物!お前がどんな間抜け面かは知らないが従う気は無……」
最後まで言う前に締め落とした。