アサシネイトウィッチ(暗殺は未遂)
慣れたものだがシェリー=モリアーティーの置かれた状況は最悪だ。
相手は素人ではなく準備万端。しかも所属の違う連中が三つもやって来ている。
対してこちらは十全の設備や道具を持たず、その上迎撃に際して三派閥全てに気付かれてはならないという制限がある。
止めに、相手を倒すことが出来たとしても、ただ相手を無力化するのでは駄目なのだ。
迎撃して捨て置いた場合、実行部隊を寄越した連中に『敵対者有り』と判断されて直ぐに武力的な援軍を呼ばれることになる。
それは都合が悪い。今は無粋な連中にあの場所を荒らされたくはない。当分の間は来て欲しくはない。
が、厄介な事に、来て欲しくないのはあくまであの焼け跡をそのまま見られる事を許容出来ないという意味で、ある程度準備が出来たら是非来て欲しいのだ。
つまり、今のシェリー君やモラン商会、スバテラ村にとってこの連中は来て欲しくはない疫病神だが、ある程度したら招く手間が省ける来賓客を呼び出せてくれる客寄せの道具になる。
今は邪魔をさせずに大人しくさせ、そして時が来たら、存分に派手に立ち回らせて宣伝を手伝ってもらう。
自称そこそこ天才から渡され、怪植物との大立ち回りでも獅子奮迅の活躍をしたW.W.W.を纏っている。
本来はこれ自体が魔力を帯びた動力源であり、魔力を消耗せずとも装着者の意図した魔法の使用が出来るが、動力の魔力は使い果たしてしまった。
それでも装着者が魔力を消費して魔法を行使する事は出来るし、動力源が無くとも高品質の魔道具。
H.T.を手にしている。
一つの事柄に特化した道具には及ばないが、あらゆる事態に発想次第で対応出来る魔道具。
W.W.W.の機能で浮かび上がり、侵入者の背後を取る。
そして、その状態でH.T.を伸ばし、侵入者を迂回するようにして木々に巻き付け、手元で紐状になったH.T.を強く引く。
夜闇の中、木々は大きく動き、音を立てた。
侵入者としての自覚のある男は否応無くそちらに注目してしまい……
(失礼致します。)
その瞬間を見逃さないシェリー君が無言の謝罪をしながら飛来し、侵入者の首筋に触れる。
『電撃』
全身を覆っていた薄っぺらな布は微弱な電撃を遮る性能を持たなかった。
ビクリと体が震え、そうして侵入者の体から力が抜けて大人しくなり、崩れ落ちそうになる。
「(手荒な真似をして申し訳ありません。)」
周囲に聞こえない様に、侵入者の耳元で謝罪をしながら気絶した体を抱え、シェリー君は夜闇に消えていった。
その時の事はあっという間だった。
木の音が聞こえた。この魔道具と自分の技術は音を出さないが目に見えてしまう。だからそちらに一瞬だけ注目してしまった。せざるを得なかった。それからはあっという間だった。
首筋に触れられた感触・やられたという致命的な死の気配・痺れる全身と薄れる意識・そして『手荒な真似をして申し訳ありません。』という現状からは最も遠い謝罪の幻聴。
それで終わった。
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