戦車と言葉
《回想開始》
三人は当初、スバテラ村へと突っ走っていた。
副会長を脅して、何かあれば直ぐに自分達に情報を寄越す様にとしておいた。最速でシェリー=モリアーティーの味方になれるように。
しかし、村に入る直前、モラン商会の新入りのイタバッサに捕まった。
「あぁ皆さん、丁度良かった、最高のタイミングです!」
歓迎する商人を少しだけ疎ましく思った。一秒でも早くシェリー=モリアーティーの元へ行きたい三人にとって一秒でも足止めをする人間は身内であっても今は苛ついてしまう。
「一体何だい?アタシらは急いでるんだよ!」
「こっちとしては最悪のタイミングなんでさぁ!」
「行くよぉ、さっさと。」
スバテラ村へと続く道を、商人を避けて走り抜けようとして、捕まった。
「モラン商会の為に動いて貰いたかったのですがね。」
賊も獣も蹴散らす戦車は致命的な一言で動けなくなった。
「何をぉ、」
「すりゃぁ、」
「いいんだい?」
その数分後、踵を返して先程以上の速度で駆け抜ける戦車が一台。
凄まじい形相が三つも乗っていたせいで誰も近付こうとしなかった。
《回想終了》
元運び屋、現モラン商会が誇るスピードスター三人。
元運び屋故に彼らは終始一貫した怪物商人や元殺し屋と比べなければ流通や裏社会の動きに精通している。
だから、その変化には気付いた。
「妙だね……」
「多過ぎやしませんかい?」
「だけど、少な過ぎるよなぁ。」
街道には危険が沢山。馬車を走らせていれば賊や獣に襲われるなんてことは珍しくもなんともない。
そして今、賊の数は増えている。だが明確に減ってもいる。
矛盾しているように聞こえるがこれは矛盾していないのだ。というのも……
「手慣れてないひよっこのクセに狙う場所に関してだけ妙に巧過ぎる。」
「装備品も出来損ないの割には良品ばっかりでさぁ。」
「なんかちぐはぐだよぉ。」
碌でもない奴らが沸くときは、どうしようもない悪い奴等がその下でコソコソやってるなんて事がある。
今までなら逃げてお終いだった。
居るのは自分達だけ。要るのは自分達の命だけ。だからそれ以外の全てを捨てて、身軽になって逃げられた。
今はもう違う。自分達はただの運び屋ではなくなった。
モラン商会の人間。自分達を引き戻してくれたたった一人の、慈愛に満ちた少女の力になると決めたのだ。
自分達がここで逃げて、彼女に魔の手が伸びる事は絶対に許せない。
「走るよ。」
「最速で行きまさぁ!」
「あの子の為に、獅子奮迅だぁ!」
こうしてイタバッサの命により、三人は情報収集と拡散をすることになった。
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