カーペンとビルディー
仏頂面の棟梁は村の修理へと走り去り、残ったのはまんまと逃げられたシェリー君と棟梁に片付けを命じられた少女だけだった。
「ウチのとう、梁が失礼をいたしました。
不器用なだけで根は良い人なので……許してください。」
当人が見えなくなったのを見て少女が頭を下げる。年齢はシェリー君より明らかに下。だがここに居て、手には仕事で出来た職業上の傷、そしてあの棟梁を手伝っている以上、この娘もモラン商会の一員と考えるべきだ。
「いいえ、あの方のお陰で私はとても良い品をこうして買うことが出来て、そしてモラン商会の方々の素晴らしい能力を知ることが出来ました。
ありがとうございます……そして、何とかして棟梁さんに、或いはイタバッサさんにこちらの椅子の正規の対価をお渡しする事を頼んでしまってもよろしいでしょうか?えぇと………」
シェリー君の様子を見て相手が察する。
「も、もうしおくれました。私は…モラン商会の、建築部門に所属していて、棟梁カーペン=トーリョーの下で大工見習いをやっています。ビルディー=トーリョーです。よろしくお願いします、シェリー様。」
「こちらこそ、ですが『様』はお止めください。私はその様に呼ばれる理由は無いので……。
それと、こちらの作品の代金ですが……」
それを聞いて棟梁の娘が動揺した様に固まり、一度考え込み、そして。
「あ!棟梁から片付けを言い付けられていました。片付けないと。」
聞かなかった事にして棟梁から去り際に命じられていた仕事、シェリー君の椅子の作成で出た廃材の処分を急いで始めた。
たどたどしい言葉遣いではあったが、そこまでの対応は及第点だった。が、残念ながら無視は頂けない。誤魔化す・騙す・謀るならそれなりの対応をしなくては。
これが自分の所属する商会の会長、雇い主であるから良いものを……良くはないが、この少女とあの不愛想仏頂面の大工が面倒な相手を前に何も出来ないのは容易に想像出来る。
「私も手伝います。」
「あぁ、大丈夫です。というより、木材が刺さったりささくれがあったり、今回は使っていないみたいですが、場合によっては曲がった釘なんかも混じっていることもあって危ないので、触らない様にお願いします。」
そう言って仏頂面の棟梁が置いていった廃棄物を慣れた手付きで片付け始める。
「へぇ……」
時に鑿で削った木屑を見て、木材の切断面を見て、廃棄というよりは観察・収集に近い動きをしていた。
それを見ていたシェリー君はビルディーと名乗る少女に一歩近付いた。