椅子作りからみせる実力
木材を広げて鋸で切断を試みる。
しかし、その木材の正体はあの怪植物の影響を受けている代物。鋸は確かに手入れの行き届いた良い代物である事は事実だが、それでもアレを切るには足りないと私は考える。
一分程同じ場所をギャリギャリと挽いた後、棟梁が鋸を仕舞う為に一歩離れる。木材が非常によく見えるようになった。
案の定、一分刃が往復していた場所には傷一つ付いていなかった。
あの棟梁が座っていた椅子。目の前の木材や村の建築物と比較して同一の材質だと解る。間違いなくこの近辺で採取された木材だ。
釘を使わずにこれだけ精緻な部品を組み合わせて作られた滑らかな椅子を作るには最低限あの木材を切る必要がある。
さて、どうやって切断するのか?
こちらがそう考えて質問するのを予期していたように今度は木槌を持って戻ってきた。
当然、木材を叩き割って偶然割れた形を組み上げてアレが作れる訳もなく、そもそも木槌程度ではどうにもならない。やりたければ破城槌を持ってくるんだな。
棟梁が何をするかと思えば、木材を端から叩き始めた。
破片をジグソーパズルにしようとしている……訳ではない。端から順に、ドアをノックする様に叩く。そして、一通りノックを終えた後で、とある箇所周辺をこちらに見せる様に、木材を挟んでシェリー君と向かい合うような形で念入りに叩き始めた。
「音が、一ヵ所だけ違いますね……」
実際、念入りに叩いていた場所の中心部は見た目こそ違いはないが、他の場所から鳴る乾いた音と違い、くぐもっていた。
呟く様なその言葉を聞いて棟梁の手が止まる。
木槌をその場において道具箱からまたしても鋸を取り出し、音の違う場所を先程同様に挽き始めた。
切断出来る訳がない。と思うだろう?
先程の一分の無駄遣いが嘘の様に呆気無く木材に刃が入っていく。
時に木槌で叩きながら切れる場所を確認して切り、時に切れる場所を敢えて切らずに残して、先程までの堅牢な木材とは別物の様に加工していく。
そうして、幾つもあった木材が全てバラバラに切られていった。
しかし、大きさはバラバラ。切断面が辺と垂直にはならず直方体や立方体ではないものも多い。
「……だからなのですね。」
シェリー君があの椅子の左右非対称の理由に気付いた。
木材の切断方法は見ての通り材料次第。二対の同じ寸法の部品を作る事は難しい。
故に、切断出来たものを組み合わせてパズルの様に当て嵌める必要がある訳だ。
先程切れる場所を敢えて切らなかった理由はここにある訳だ。
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