棟梁とシェリー君
モラン商会会長のシェリー=モリアーティーは、実に奇妙な話だが自分が会長を務める商会に足を踏み入れたことがない。どころか幹部数名以外に関係者と顔を合わせた事がない。
学業と関係の露見リスクを考えての事だが、お陰で人員と組織の状態の詳細が把握できていないのが現状だ。
こちらで発掘・発見した有能な人材も幾人かはいるが、スカウトやその他実務は行えない関係で原則副会長に一任している形になっている。
商会の方針でやる気があって来る者は拒まないので玉石混交となっているというのは知っている。
そして、商会から届く手紙を見る限り、モラン商会が抱える、或いは繋がりを持つ専門職を見つけてくるのはほぼあの商人だ。
「お初にお目にかかります。
私が今回皆様にお仕事をお願いいたしました、アールブルー学園のシェリー=モリアーティーと申します。
こんな小娘のために遠路遙々お越しくださいましたこと、厚く御礼申し上げます。」
「ぉぅ。」
使い込まれているが汚れの無い作業着に身を包み、木製の椅子に座って仏頂面を浮かべた無愛想な男。
喉を鳴らしただけの様にも思えるがシェリー君の挨拶に対して目を動かしていた。一応は一言返事という訳だ。……いや、というよりもこれは『自分は認識している』というただの意思表示。『一言返事』というのは正直語弊があるな。
モラン商会の建築部門の長、棟梁とも言うべき男。この棟梁もあの商人が捕まえた人材の一人だ。
正直、その様子だけ見ていればこの男の無愛想仏頂面が仕事を失わせ、最終的にモラン商会が拾ったと見るが、そうでも無いな。
「…質問をしても、宜しいでしょうか?」
申し訳なさそうに手を上げる。表情を読み取ろうとするが、残念ながら仏頂面は固定されたままだ。が、こちらを見て少しだけ首を縦に動かしたので肯定と仮定してシェリー君は話を進める。
「そちらの椅子、素人目で見ても非常に良いものだとお見受けしますが、あなたが作ったのでしょうか?」
そう言ってシェリー君が指さしたのは仏頂面の棟梁が座っている木製の椅子。
華美な意匠が施されている訳ではない、自称そこそこ天才の椅子の様にご機嫌な魔道具という訳でもない。しかし、様になっている。
屋外に放置されていたものを引っ張り出して座っているというにはあまりにも男の体の寸法に合っている。
椅子の足の高さや背もたれの角度、座席の奥行に至るまで男のために作られたもの。
「ぉう。」
まぁ、目の前の男が大工であるのなら、見慣れぬ家具を手製のものだとする方が自然だ。にしても……だ。
「材料はこの村周辺の木々、そして珍しい技法で作られたものとお見受けします。
あの木は非常に頑丈で加工が難しいという事でしたが……不躾ですがどうやって作ったかを後学のために教えていただく事はできますか?」
(過去を見直してガバを見つけて頭を抱ている人)
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60万文字という長さにしたのが敗因ですね。思考の方から要改訂です。