健康に異常なし
周辺の白が僅かに薄くなっている。地下の回収設備は順調に働いているのが解る。
「無事だったかい?」
自称そこそこ天才から送られた第一声はそれだった。
「はい、お陰様で。」
先程まで取り乱していたとは思えない自然な表情で答えを返す。
地下の施設で『うっかり軍事機密を知ってしまったのではないか?』と慌てていた少女の顔はどこへやら?余裕綽々を見せつける。
「そちらの首尾はいかがですか?」
「重畳という奴だよ。君の働きに感謝しよう。」
シェリー君が手にしていたサンドワームの配管は地下施設の一画にセットされ、そこから一定のガスが今も送り込まれている。
「さぁ、詳しい話やこれからの事はさておき、先ずは健康状態のチェックだ。
中毒を起こしていないかチェックさせてもらおう。
ちなみに、私が渡した魔道具の性能確認という目的も含んでいるので拒否はしないで貰えると助かる。」
「………解りました。」
逡巡したが、
自称そこそこ天才がシェリー君との駆け引きに慣れ始めた。
『無理をするな』とシェリー君を案じて言ってもシェリー君は無視をしてかなりの無理をする。だが、『○○に協力してほしい・○○してくれると助かる』と頼めば断れなくなる。
自分の事は放っても問題ないしおざなりにしても良いが、他人はダメという訳だ。やれやれ……
そんなこんなで自称そこそこ天才とシェリー君は椅子に座って問診と診断をすることになった。
自称そこそこ天才がシェリー君の腕と頭に配線の繋がった帯を手際良く巻き付けて何気ない会話をし始めた。
「オーイさんの様子は?」
「問題ない。この自称そこそこ天才、ジーニアス=インベンターの名に懸けて回復を約束しよう。
君が用意してくれた動力もある。これならあっという間だ。」
「良かった……」
「手足の痺れや倦怠感、目がチカチカする等の症状はあるかい?」
「ありません。」
「他に気になる点があれば言って欲しい。」
「健康そのものだと思います。」
「では、その状態を維持して欲しい。
じゃぁ、これでおしまいだ。特に身体的な問題は無いようだ。」
「ありがとうございます、ジーニアス様。」
頭を下げるシェリー君に対して自称そこそこ天才は笑って答える。
「いやいや、こちらこそ実験協力に感謝するよ。
さぁ、私としてはこれからまたキビキビ働かれるとそれはそれで困るのだが、今日はこれからどうする気だい?」
機器をすっかり外して立ち上がり、眠っている孫娘の様子を見ていたシェリー君が振り返って答える。
「そういわれると思っていたので、これから村へ行ってモラン商会の大工の方々とお話をしようと思っていますよ。ご安心を。」
過去話におガバが見つかりましたので少し手直しいたしました。