7.
よくわからない男の姿を観察するのを止め、剣が並べられているスペースへと足を運ぶ。
すると先ほど男ともめていた少年がトトトと私の元へと駆け寄ってくる。
「ありがとうございます。助かりました」
ペコリと頭を下げた少年の顔は大層可愛らしい。鍛冶屋の店員というよりもカフェの店員さんと言われた方がしっくりくる。
思えばここにくる前に通った、女性ばかりが列を作ったカフェの店員さんも、目の前の少年のように大層見た目が整っていた。
王都って顔かたちが整っている人が多いのかしら?
というか、頭に浮かんだその少年と目の前の少年は驚くほどにそっくりだ。兄弟、かしら?
だが不思議とあのカフェの店員さんのような話しかけづらさと言うものはない。
彼らの違いといえば、白のシャツにオシャレな黒いエプロンをしているか、油やススで汚れた作業服を着ているかだけである。
どうやら私はキラキラときたオシャレな店員さんが苦手なようだ。
「気にしないで。私、考えもなしにチョップしただけだもの。あ、そうそう、ここの剣って手に取ってみてもいいのかしら?」
「はい。重さや手の馴染み具合をご確認ください。柄の部分は言っていただければ、こちらである程度の加工もできますので」
「わかったわ。ゆっくり見させてもらうわね」
「お決まりになりましたらお声がけください」
少年が奥へと下がるのを確認してから、改めて並べられた剣と向かい合う。すると自然と背筋がピンと伸びる。
ここの剣はおそらく、先ほどの男と少年の会話の中に出てきた『カディス』という人が打ったものだろう。
形自体はよく見るものではあるものの、刃の輝きやなめらかさは私や父ちゃんが所有している剣とは段違いである。
これらの武器を見ていると、指名してまでその人に打ってもらいたい! と願う気持ちもわからなくはない。
だからといって店員さんに怒鳴ったり、傲慢な態度を取るのはどうかと思うけど。
悪者の下っ端みたいに退場をしていった男のことはひとまず忘れて、一際目立つ短剣へと手を伸ばす。
装飾は私の今持っているものよりもずっと簡素で、最低限の材料と最高の技術を込められたのだろうそれは非常に軽い。
だが残念なことに私の手には柄が太すぎる。
少年は柄の部分ならある程度加工できるって言っていたけれど、第一関節分となるとせっかくの刃と柄とのバランスが崩れてしまう。
そんなのこの剣の魅力をかき消してしまうのと同じである。
おそらくは男性か、そうでなくとも手の大きな人物が使うためのものなのだろう。
これは私と縁がなかったんだなと思って、渋々元の位置へと戻す。
そして隣の物も手に取るがやはりこれも違う。
これは垂直に振り下ろした際に中指に力が入りすぎてしまうのだ。おそらく私には少し重すぎるのだろう。
ならば、と次も手を取るがやはりこれも、その次も違う。その次も、その次も……。
どれも特徴は違うはずなのに、そのどれもが私にはどこかが合わないのだ。
少しでも妥協すれば、簡単に見つかるだろう。なにせどれも間違いなく至高の一本なのだ。さすがは王都に店を構えている店だけある。
だが私は今、生涯の相棒を探すつもりになっている。妥協をするつもりはない。
だからといって他の店に移るつもりもない。
――となれば変えるのは武器の種類の方だ。
昔から教えてもらっていたのが短剣で、簡単な体術の他には短剣しか使えない。だが使えないなら使えるようになればいいだけである。
やる気があれば今から武器を変えることもできるはずだ。
幸運にもコンラット村の村民は様々な武器を扱う者が多いのだ。
スタンダードな武器だったら誰かしらが教えてくれるだろう。
そうと決まれば今まで背中を向けていた武器達に今度は顔を向けて、私の相棒となるべき子を探し始めるのだった。
次話更新分から
村に伝わるチョップは意外と凄かったらしい
(https://ncode.syosetu.com/n0014fi/)
とは異なるお話になります。
個別章への突入に伴い、更新頻度が一日2回から一日1回、18時のみに変更になりますのでご注意ください。