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21.

 ………………だが期待した私がバカだった。


「ってなんで姉ちゃんまだ王都にいるの? レニィへのお土産は? ちゃんと渡してくれた?」

「ちゃんと送ったわよ。っていいから手伝って」

「そっか、良かった。あ、レニィに変な虫はつかなかった?」

「……大丈夫みたいよ」

 そうよね。民衆に注目を浴びている姉より、田舎の村に残してきた愛するレニィちゃんよね……。


 この数ヶ月で変わらなかったことを喜べばいいのか、話を聞けと怒るべきか……。

 まぁ、いっか。

 これもレオンが元気であるという証拠である。

 むしろレオンが口を開いて、レニィちゃんという名前を出さなければそれはそれで心配だ。

 心変わりをしたなんて抜かしたら、カディスに作ってもらっている槍の初めての獲物がレオンになるところだったわ……。


「そっか、良かった……。あ、そうだ。姉ちゃん、ただいま」

「お帰りなさい」

 レオンに手を伸ばして「元気そうで良かったわ」と告げる。もう視線は気にしないことにする。


 私は弟と幼なじみと再会を喜ぶ、ただの村人に過ぎないのだ。


 それからしばらく経ち、ようやく兄ちゃんは私から剥がれてくれた。そしてそれを見計らったように通りからは黒いローブのよく似合う男性がお迎えにやってくる。


「こいつら回収させてもらうぞ?」

「ええ。兄ちゃんをよろしくお願いします」

「ああ」

「いってらっしゃい~」

 兄ちゃんは仲間達に連れられ、セントラル通りへと戻る。遠のいていく兄ちゃんにせめても、ということで手を振っておく。


 それにしてもあの人、父ちゃんと同じ年くらいかしら?

 一緒に旅をした仲間がいい人そうで安心したわ。迷惑はかけてそうだけど……。

 まぁ何はともあれ、二人とも変わらず元気なところが見えて安心したわ。


 空き箱から降りて周りを見回しても、もう私に注目する視線はない。視線はとうに私から兄ちゃん達に移っているからだ。

 レオンが大声で姉ちゃん、姉ちゃん騒いでいたのも大きいのだろう。クラウス兄ちゃんとレオンが幼なじみだって情報はいまや誰もが知っていることで、レオンの姉ならば勇者クラウスの幼なじみに違いない、と。

 ここで恋人か何かと勘違いでもされたら大変だったが、兄ちゃんと私は結婚間近だったとはいえ、そういう甘い雰囲気みたいなものは一切なかったのも良かった。

 私達にとって結婚は、戸籍上も家族になるための行為でしかなかったのだ。あるのは恋愛ではなく、家族愛。兄ちゃんに向けるのは、レオンに向けるものと全く同じものである。疑われるようなことは一切ない。もし頼まれたら結婚のスピーチをしてもいいほどだ。まぁそんなこと頼まれることなんてあり得ないんだけど……。


「ミッシュ……」

 聞きなれた声に振り返るとそこにはカディスの姿があった。

 声に覇気がないみたいだけど疲れているのかしら?

 仕事の合間に勇者たちの姿を見に来たとか?


「カディス、あなたも勇者一行の凱旋パレードを見に来たの?」

 そう尋ねてもカディスは無言で首を振る。

 ならなんだろうか。もうお城に向かうとかかしら? と首を傾げる。

 するとすうっと息を吸い込んだカディスが再び口を開いた。


「俺はあんたにこれを渡しに来た」

「え?」

「完成したんだ、あんたの、あんただけの槍」


 平和の象徴である勇者が凱旋する通りの端でカディスが突き出すのは、布に包まれた、カディスの身長よりも長いであろう一本の槍だった。

 しゅるりと音を立てながら退かされた布に隠れていた部分までも明らかになる。


 槍の全長と比例するように長めの刃に、それを支える柄にはツタのようにグルグルと一本の線が巻かれている。そして一番の特徴は柄が透

 き通るような緑色であることだ。

 おそらく使われているのは魔鉱石である。

 私が魔鉱石の存在を知ったのはつい最近だ。

 カディスの鍛冶屋に並んでいる武器のいくつかに使用されていたのだ。その値段に思わず目を疑った。普通の鉱石の何倍、いや何十倍の値段はするのだ。なんでも自然界の魔力が固まってできた鉱石を使っているというのだ。人工のものもあることにはあるらしいが効果はもちろんのこと、見た目が全く違うらしい。


 最上級のものは透き通った色をしているのだと、クラネットは教えてくれた。


 まさにこの槍のように――。


「綺麗、だけど……手持ちで足りるかしら? 代金、ちょっと待ってもらうことって出来る?」

「金ならいらない。あんたに、ミッシュにやる」

「え、でも……」

「長い間待たせちまったし、あんたよく働いてくれただろ? 俺じゃあ武器くらいしかやれるもんないからさ」

「カディス?」


 なんだか様子が変だ。カディスは私の顔をみようともしない。それどころか、どこか遠くを見ているような?

 彼の視線を追うとそこには『勇者』がいた。


 目の前の私ではなく、クラウス兄ちゃんが。

 ずっと、あの号外が王都中に撒かれたあの日からカディスは兄ちゃんを見ていたというのだろうか?


 私の武器を作っている最中も?


 思わず受け取った槍に力が入る。でもやはりカディスの打った武器だ。見た目のか細さからは想像できないほどに立派で、私の握力なんかには負けやしない。

 さすがはこれからの相棒だ。


 私の醜い嫉妬にだって、耐えてくれるのだから。


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