20.
「親方、どうしちゃったんだろうね~」
「考え事するとひたすら武器の量産し続けるのは、別に今に始まったことじゃないでしょ」
「まぁね。お客さんには喜ばれているからいいけど、でも今日も新聞見ながらため息吐いてたのは気になるよね。引き出しの中に隠しておいたのに、いつの間にか持ってきてるし……」
「新聞ってあの?」
「そうそう」
三日ほど前、王都の至るところでとある号外が配られた。
なんでも勇者一行が魔王を連れて王都に向かっているという。
討伐しに行ったはずなのになぜ連れて帰ってきているのか。
犬や猫と違うんだからさっさと元の場所に返してきなさい! と突っ込みたくなるところだが、記事によると魔王は人間側との共存を望んでおり、そのために人間の王様との対話の機会を狙っていたらしい、とのことだ。
そのためにずっと魔王は勇者の来訪を心待ちにしていたのだという。
唯一、魔王を無力化できるとされている勇者がいれば会ってくれるだろうと思っていた、というのが魔王側の主張らしい。
それに勇者と、国王陛下が頷いたとかで一緒に来るそうだ。
道中、徒歩なのは魔王が人間に自身の存在を知って欲しいという、魔王側の意向で~とか何とか難しいことが書いてあった。
この記事によって一部、混乱している国民もいるらしい。
だが私はそっか、としか思わなかった。
だって魔王と一緒にいるのってクラウス兄ちゃんとレオンだし。何かあったとしてもどうにかしてくれるに違いない。
私としては帰ってきた後、本当に兄ちゃんがお姫様の旦那さんになれるのかの方が心配である。
勇者様はお姫様と結婚するっていうのはもうずっと前からの風習だから、どうにかするのだろう。きっと過去には田舎の村から選ばれた平民だっていたはずだ。いなかったら……まぁどうにかするだけだろう。兄ちゃんは器用ではある。マナーとか、身体に覚えさせる系のことはどうにかしてくれると信じることにしよう。
他人任せにできる兄ちゃんのことよりも、今はカディスのことが心配だ。
魔王を退治していないとはいえ、勇者一行の帰還である。
もちろん勇者に武器を提供したカディスは今回の功労者の一人として、凱旋パーティーに招待されている。
けれど城からの使者が持ってきてくれた招待状を放り出して、カディスは勇者帰還の記事ばかりを見ている。
口を開けば「勇者……か」とポツリとこぼすだけ。
兄ちゃんが何かやらかしたのだろうか?
心配になって、カディスと共に勇者一行と会ったというクラネットに話を聞いてみた。けれどこれと言って特に思い当たることはないというのだ。
実際、カディスは今まで何度か私と『勇者』の話をしていたし。その時はため息を吐くこともなければ、何か考えにふける事もなかった。
だからきっと原因は『勇者』ではないはず、とここまでは絞れるのだが、これと言った原因が突き止められない。
私だけではなく、クラネット・ユーロ・カンナの三人も同じである。だからこそ早々とカディスが席を立った食事の席で、四人揃って首を傾げているというわけだ。
けれどその結論を導き出すことはできなかった。それよりも早く、勇者が魔王を連れて帰ってきたのである。
王都のセントラル通りというところを通って城へ一直線。勇者一行がその道を通ることはすでに号外に載っていた。だからクラウス兄ちゃんとレオンの帰還を一目見ようと足を運んだ。
けれど通りの両サイドに張られたロープ付近はすでに記者や、ずっと前から張っていた人たちによって埋まってしまっている。だから少し離れたところで、クラネットに用意してもらった木箱に乗って眺めていたのだ。
――が、そんな私を兄ちゃんは目ざとく見つけ出した。
そしてレオンの手を引くと、魔王や他の仲間を置いて私の元へとダッシュで向かってきた。
「ミッシュ、ただいま!」
さすが兄ちゃん。相変わらず目がいいわね~なんて感心してしまう。
観衆が唖然とする中、兄ちゃんはお構いなしで私を強く抱きしめる。
幼い頃から長く一緒に居たから汗くささはあまり気にならない。むしろふわっと香る、いい香りの石鹸はどこで使ったのか気になるくらいだ。本当に。後で是非教えて欲しい。
そしてお土産として母ちゃんたちに持って帰りたい。……とそんなことよりこの状況、マズいのでは? と思い直して、兄ちゃんを剥がそうと肩に手をかける。
けれど村をでる時よりも力が強くなったのか、まったく身体から離れる様子はない。むしろ、剥がされまいと強く抱きしめているんじゃないかとさえ感じる。
「ちょ、兄ちゃんともかく離れて。というかレオン、あんたも手伝って!」
ずっと立ちっぱなしのレオンも勇者一行だ。今回の功労者の一人といってもいい。そんな男を手伝わせるのもどうかと思われるかもしれない。なんなら白い目で見られるかも。でもレオンは弟だ。王都の住民に白い目で見られたところで構わない。
この状況をどうにかしてくれるのならば!




