18.
「嬢ちゃん~」
「はい」
「嬢ちゃん、こっちも!」
「あ、はい」
グレンという男が来てからというもの、私はよくお客さんに声をかけられるようになった。というのもあの日から一層、お客さんが増えたのだ。
そしてそれに比例するようにクラネット・ユーロ・カンナの三人の手が回らないところが出てきた。だから私が、というよりも、簡単なことは比較的手がすいている私に回ってきただけなのだろう。
新人だという噂が流れているのか、分からないことをクラネットに聞くために一度下がっても、誰もがゆっくりでいいと待ってくれる。
でもこんなことがずっと続いたら迷惑だし、頑張って覚えないと!
パタパタと店を駆け回っては、今日も今日とて目まぐるしい一日を過ごすのだった。
一日が終われば、毎日のご褒美が待っている。
今日も頑張ったわ~と、身体を天井に向けて伸ばしながら居住スペースへと帰る。
そして真っ先に向かうのはダイニングスペースだ。お目当てはテーブルの上に置かれたユーロの特製オヤツである。
今朝、今日はプリンだって聞いていたから、いつもよりも頑張っちゃった。だからお腹ペコペコ……。
もう身体が甘味を欲しているわ!
今日は甘いカボチャが手には入ったとかで、カボチャプリンというやつだ。
スプーンで今日のプルプル具合を楽しむことなく、スプーンでユーロ特製プリンを大きめに掬う。そして大口を開けて頬張る。
普通のカスタードプリンも美味しいけど、こっちも野菜の甘みがたまらない!
これもレニィちゃんに教えてあげなきゃ!
プリンのレシピは、すでにユーロから教えてもらったものを手紙に書いて村に送っている。
これが定期連絡の代わりである。
初めの一度だけは状況を説明したけど、あの人達にとって毎週ほぼ変わりない娘の王都生活なんて知っても楽しくないだろう。
どうせ手紙が着く頃にはどんな生活をしているかわからないのだ。手紙が着くよりも早く、私の武器が完成して村に着いてました~なんてこともあり得る。
それに元気に生きていますということが知らせられれば十分である。
実際、ユーロの作ってくれる料理やデザートは私たちの知らないものばかりだ。
コンラット村は甘い物に目がない人も多い。だからデザートのレシピの方が喜ばれるというわけだ。それはもう、お土産と同じくらいに喜ばれる。
それは手紙に書かれた文章からも分かるほど。だから母ちゃんやレニィちゃんが変わらず元気だってことはよくわかる。
ただもう帰ってこなくてもいいと思われていないかだけが心配である。
実は数日前に届いた母ちゃんからの手紙に「そっちでいい人できたんじゃない?」なんて書かれてたのだ。
確かに初対面の鍛冶師が武器が完成するまでとはいえ、部屋を貸してくれるなんて普通はありえない話だ。
それもかれこれ二ヶ月近くも、だ。
最近は店の方の手伝いもしているが、それでもここにおいてもらっているのは武器を待っているから。
私に他意はないと、なんなら私といい雰囲気になんかなってくれる人がいないことを、父ちゃんならきっと分かってくれているだろう。
だが母ちゃんの方は違う。
正直な気持ちは「いい人できたんじゃないか?」ではなく「さっさといい人捕まえてこい」なのだろう。
これを年頃の娘を心配しての言葉と取るか、一人身で過ごさせたら面倒くさいことになるだろうから誰かに押しつけてしまおう考えているからこその言葉だと取るか……。もちろん後者である。
だって母ちゃんだし。
『村にいたところで新たな出会いはないんだから!』
『さっさといい男捕まえて来なさいよ!』
そんな言葉が頭の中で何度も再生される。
だが今はハッパかけられているだけでも、ずっと王都に滞在し続ければその意味は大きく変わってしまうかもしれない。
願望からの言葉ではなく、本気でそう思われる可能性もあり得るのだ。
それはさすがに申し訳がない。何が、って一番は王都に押し掛けられでもしたら困るのだ。カディス達が。
少々思いこみが激しい母ちゃんのことだ。
ほぼ確実にカディス・クラネット・ユーロの三人の中の誰かとの関係を疑うことだろう。
彼らにとっては客人にしかすぎないだろうに、あの母ちゃんに詰め寄られるなんて不憫でならない……。
それだけはなんとか阻止しなければ!
というかさっさと諦めていただきたい。
レオンとレニィちゃんは結婚するのは、魔王が世界を滅ぼすかレオンがヘマして殺されない限り確実なのだから、孫はそちらに期待してくれ。
いや、レオンの場合、万が一殺されたとしても戻ってくるわね……。それくらいのガッツはあるはずだ。
なかったら……その時は私が責任を持ってレニィちゃんを養わなければ!
まぁそんなこと、レオンに限ってはあり得ないんだけど。
だって一緒にいるのクラウス兄ちゃんだし。
いざという時は耳元で『レニィ』と囁いておけばいいというのは、コンラット村の村人なら誰でも知っていることだ。何かあった際には実行してくれるだろう。
――ということで、母ちゃんの期待をさっさとボッキリと折ってしまいたいわけだが、私自身、後どれくらいで帰れるのかが分からない。
他の仕事もしてくれと言った手前、聞き出すことも出来ず、もし聞いたところでカディス自身もその答えを持っていないだろう。
いったいどうしたものか……。
椅子の背もたれに身体を預けて、ウンウンと唸る。
けれど出てくるのは声ばかりで、いいアイディアなんて浮かんできそうもないのだった。




