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17.

「嬢ちゃん、こっちのはいくらだ?」

「あ、はいそれは……」

「クラネット、これの直し頼む!」

「了解しました!」

「カンナさん、お客さん来ているのでこっち来てください~」

「え!? じゃあ、ちょっと私抜けるから。ユーロ、こっちのお客さんのお会計よろしく」

「わかった! いってらっしゃい」


 カディスが他の仕事もやると言ってくれてから早3週間――カディスの鍛冶屋は総動員で働かなければ手が回らないほど忙しくなった。


 あの日、カディスはたった一夜で空になりかけていた在庫を元の状態に戻したのだ。

 そして翌朝、在庫が少なくなっていても、カディスの鍛冶屋に毎日通ってくれた数人の冒険者達が、それを他の冒険者に伝えてくれたらしい。


 その結果がこの大盛況である、


「カディスの集中期間、やっと終わったんだな」

 私に大量の投撃用ナイフを手渡してきた、ローブを目深にかぶった冒険者らしき男は口元をゆるませていた。

 他のお客さんも似たようなものだ。

 なんでも勇者一行の武器を作った時も似たような状況だったらしく、常連の中では待てばいつかは終わる期間として見られていたらしい。



 カディスは、カディスの武器はずっと待たれていたのだ。

 お店に来ていた人よりもずっと多くの人が。



 今だってカディスは工房でせっせと新しい武器を打っている。

 やっぱり言ってみて良かった……。

 この3週間間、少なくとも私が見ているところでは、カディスは私の武器を打っていない。工房の隅に置かれた槍をくるむ布が全く昨日と変わりがないし、ほぼ間違いないだろう。


 カディスが私の武器を打たなくなってから、彼の様子は見違えるほど変わった。

 いつだって幸せそうに鉱石や武器に向き合うのである。気に入らないと打ち直すこともない。


 正直、私の武器を打っていた時よりもずっと幸せそうだ。


 いろいろとアイディアが溜まっていたというのもあるのだろう。だが、クラネット達からすればどうやらそれだけではないらしい。


 私にはさっぱりだ。

 だけどなんだかカディスが幸せそうで、つられるように私の胸は春の陽気のようにポカポカと温かくなる。

 きっとそれはカディスを中心にみんな嬉しそうな表情を浮かべるからなのだろう。


 ニヤケた顔をぱちーんと小さく叩いて、次のお客さんの会計を済ませるべく顔をあげる。

 すると異様なほどに大量の短剣を抱えた男がやってきた。



 え、なんでこんな短剣ばっかり?

 お客さんごとの事情に踏み込むのはいけないことだ。そう分かっていてもなぜ? と思わず首を傾げてしまう。


「これの倍の量をできたらギルドまで運んできてくれ。代金は今払っちまうから」

「え、ええっと……」

 そんな注文、初めてだ。

 まずはカディスに出来るか聞いて……。あ、後はお名前と住所も? そもそも宅配サービスなんてしているのかしら?


 あわあわと戸惑う私の横から、慣れた様子でクラネットがスッと顔を出す。


「グレンさん、お久しぶりです。これは補充用ですか?」

「久しぶりだな、クラネット。ああ、そうだ。カディスが久しぶりにちゃんと仕事をし出したって聞いたから買い込みに来た。また止まられちゃ、うちの新人が困っちまう」

「いつもありがとうございます。この数なら明日の昼には届けられると思いますが、今回は短剣だけでいいですか?」

「ん? ああ、そうだな。せっかくだから他のも見てくかな? そうすると納品が遅くなるか?」

「物にもよりますが、できた物からまとめて納品もできます」

「ああ、じゃあちょっと見てくわ。それよけといてくれ」

「はい。では選び終えたらまた声、かけてください」

「わかった。ところで嬢ちゃん、最近ずっといるみたいだが新しいバイトか?」


 どうやらこの店をひいきにしてくれているお客さんらしい。だから私も、失礼な真似はしないようにしたい。

 ところなのだけれど、なんと返したらいいのか、その答えが分からないのだ。


「いえ、私は……なんでしょう?」

 バイトか、と聞かれればNOであるのは間違いない。だからといってクラネット達のように家族でもない。

 どちらかといえば目の前の男と同じ、お客さんである。三食寝床付きの。だが果たしてそれをお客さんと言ってもいいのか……微妙なところである。


「なんでしょう、ってあんたなぁ……ってあ! ああ、ああ、そうか、そうか。なるほどな」

「なにがです?」

「野暮な質問しちまって悪かったな!」

「そうですよ、グレンさん。あんまりツッコむと値段、倍取りますよ?」

「うっ、クラネット。お前、脅しが上手くなったな……」

「グレンさんにはお世話になっていますけど、こればかりは……ね?」


 わかりますよね? とグレンと呼ばれる男にクラネットはプレッシャーをかける。

 二ヶ月前に男に詰め寄られていた彼からは到底想像も出来ないほどに、その声は低く、圧を孕んでいる。


 クラネットは本気である。

 それほど大切な何かがあるのだろう。だがツッコむことはしない。だって怖いし。御飯なしとか言われたら悲しくて泣けてくる。


 触らぬ神にたたりなし、だ。


 私と同様の結果を導き出したらしいグレンさんは、ギギギと機械のようにクラネットから視線をそらす。

 そして「さて、何を買うかな~」とわざとらしく声を上げて再び武器選びに励むのだった。



 結局、グレンさんはその他に槍や弓を何種類か購入していった。

 お店から帰ってきたカンナさんが、クラネットから耳打ちされるや否や彼に向かって思い切り足蹴りを炸裂させていた。

 お客さん相手にそんなことをしてもいいのかと戸惑ったものの、グレンさんはしきりに「悪かった。俺が悪かったから」と繰り返しているだけで、周りのお客さんも特に気にするような様子もない。


 よくある光景なのかしら?

 グレンという男がいったいどんな人物なのかは分からない。だがどうやら悪い人ではなさそうだ。


 だがグレンさんに話しかけられてからというもの、店内のお客さんが揃って微笑ましいものを見るような目で私を見てくるようになったのはなぜなのか?――むしろそちらの方が気になってしまうのだった。


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