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14.

 そういえば私、カディスが工房や店の外に出る姿って初めて見るのよね。

 基本的に武器打っているかご飯食べているかだし。それが私の中の『カディス』という人物の当たり前になっていた。

 だから正直、こうやって隣に並んで歩くのは違和感がある。でもそれと同じくらい、楽しくて心が踊るのだ。

 これはまだ見ぬイカ、ひいては今日のご飯であるシーフードグラタンが楽しみで仕方がないのか、それともカディスとのお出かけが楽しいのかはわからない。


 けれど一つだけ言えるのは、カディスとのお買い物は私が想像していたそれと大分違ったということだ。


「あらカディス! あんたを店の外で見るの久しぶりだわ! 一年ぶりくらい?」

「人を引きこもりみたいに言うなよ」

「カディスが買い物なんて珍しいな。新しい子どもでも増えたか?」

「誤解を招くような言い方するんじゃねぇ」


 カディスが歩けば店の人達は揃って顔を出す。

 地域との交流はあの三人に任せっきりで、彼自身はそうでもないかと思っていたが、どうやら違うらしい。

 カディスが店から全く出てこないっていうのは想像通りだった。だが彼を慕う? 人が思いの外多い。

 鍛冶屋を利用しているであろう人も見られるが、お店の若い女性があの店に出入りしているとは考えづらい。


「誤解って、まさかお前、ついに……そうか、そうか。母ちゃん、カディスが!」

「騒ぐな!」

「え、カディスがどうしたって?」

「ああ、聞いてくれよおじさん。ついにカディスにも春が!」

「え!? 新しい子が来たんじゃなくて、か?」

「ああ、そうなんだ」

「あ、そういえばこの前、カンナちゃんに会った時、あの子なんだか嬉しそうにしてたわ! これはみんなに知らせないと!」

「知らせるな! 落ち着け! 俺はただイカ買いに来ただけだ!」

「彼女と?」

「彼女じゃない」

「え、もう結婚してたのか? 教えてくれれば良かったのに……。祝いの品は何がいいか……」

「だからそう言うじゃねえ! さっさとイカ売れ」

「え、イカでいいのか? いくらお前の好物だからってそれはちょっとな……」

「だから違うって言ってるだろ!」


 言葉だけ聞けばつっけんどんなのに、カディスの顔は全然嫌そうではない。むしろ、照れているような?

 誰も彼もがからかうから、恥ずかしいのだろうか。

 隣で見ていても、彼らがカディスをどれだけ大事に思っているのはよく伝わってくる。カディスはこの手の話題に免疫があまりないらしいが、気にするのはきっと彼を気にかけているからだろう。だからカディス自身も突き放したりはしない。


 何だか見ていて嬉しくなってくる。

 ふふっと幸せを感じていれば「ミッシュ、おまえもなんか言ってくれ!」とカディスは困ったような表情を浮かべる。


 けれど彼に助け船は不要だろう。

 それに久々に出てきたカディスとの交流時間を奪ってしまったら、彼らが悲しんでしまう。次々に増えてくるのは市場のお店の人達だ。カディスと呼ぶその声は老若男女のどれにも当てはまる。

 それだけカディスが好かれているということだ。


 だから私は笑って答えることにした。

「大丈夫。少しくらいならユーロも待ってくれるわ」




 その夜のご飯はイカがたっぷりと入ったシーフードグラタンだった。

 無事に買えたイカは野菜でも果物でもなく、魚と一緒に並べられていた。

 通りでカディスが心配する訳である。あのまま行ったらきっと時間だけが無駄に経過していたことだろう。

 王都には私の知らないことがまだまだ溢れているらしい。

 ちなみに初めて見た『イカ』の大きさは両手をくっつけて乗せると少し身が出てしまうかな? というくらいと、小さめであった。いや、イカに限らず王都で流通している物は全体的に小振りのものが多いようだ。大きいと運ぶのも大変だし、その辺りのことを考慮してのことなのだろう。


 味はもちろん美味しい! 独特の歯ごたえがたまらない!

 これはカディスがなかなか引かなかったのも納得だ。

 口いっぱいに広がる魚介の旨みに頬を緩ませるのだった。


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