12.
「ただいまかえりました~」
昨晩、カンナさんとユーロが使っていた裏口から店に入る。
するとその声に金槌を握っていたカディスの手が止まる。その手の中にあるのは朝よりもずっとしっかりと芯を持った槍だ。
早くない?
確かにこんなに早くできるなら泊めてくれたのも納得だ。素人目で見た感じだけど、これなら村に帰ってまた来るよりも早くできそうだ。
さすが職人。
早さもそうだが、少し離れた位置からでもわかるほどにしっかりとした槍である。正直、想像以上だ。というか店に置いてある槍でもなかなかのものなのに、あれ以上がこんなにすんなり作られるなんて……。
さすがは勇者一行に武器を提供するだけのことはある。勇者一行といっても兄ちゃんとレオン以外の人たちのことは知らないんだけど、あの二人のことならよく知っている。
あの二人は……簡単に言えば鍬や銛ですら物を選ぶ人である。
力を入れた時に、壊れてしまうものやヒビが入ってしまうものは論外だが、それ以上に彼らが使うものは耐久性が重要視される。……私も二人のこといえないけど。
とにかくいかに丈夫かどうかは最重要事項なのだ。
どんなに使いやすかろうが、壊れてしまえば何の意味もないのだから。それにせっかく選ぶならずっと使えるものがいいに決まってる。
それにしてもこの槍、本当に戦闘に特化したような……。
もちろん制作途中だからなのだろうが、指になじむような線以外は装飾のようなものは一切見あたらない。
これを使って魚捕まえてるところなんて、カディスに武器作って欲しい人に見られたら怒られそうだなぁ。
まぁこれを使って狩りするし、魚捕る時に使うんだけど……。
どうせだれもあんな田舎までこないから大丈夫、大丈夫。あるとすれば父ちゃんにものすごく羨ましがられるくらいだ。レオンもカディスに作ってもらった武器を持っているのだが、さすがに父ちゃんも新婚の邪魔はしないだろう。
私も結婚できればなぁ……と思わないわけではない。だが多分、王都で武器を前にして目を輝かせているうちは結婚なんて無理だろう。
でもこんな綺麗なものを前にして興奮しないなんて私には無理だし、だったら結婚なんて諦めてしまってもいいかもしれないと思ってしまうのだ。
「あ、カンナ。お前出てってすぐくらいにリリーが来たんだが、会ったか?」
「はい。今、行ってきたところです」
「そうか。んじゃメシ食うか。クラネット、メシにするから店閉めとけ」
「りょうかいです」
お店の方からクラネットはチラリと顔を覗かせる。どうやら私達が帰ってくるのを待っていてくれたようだ。
「ユーロ。メシ」
「はいはい。できてますよ」
カディスの手元の槍から意識を手放すと、キッチンから香ばしい香りがする。ゆっくりとキッチンの方角へと視線を移動させると、ニコニコと笑うユーロの手元には湯気をゆらゆらとさせるグラタンがあった。
「いい香りね!」
「今日はほうれん草とベーコンのパスタですよ」
イスに座るとテーブルの中心に大きなお皿がズドンと鎮座する。
これは絶対美味しいわ!
武器を眺めていたのとはまた違う興奮をしながらじいっと見つめる。するとカディスがお皿に取り分けて渡してくれる。
「ユーロのメシは旨いからいっぱい食えよ」
「いただくわ!」
口に入れるとふんわりとホワイトソースの香りが鼻を抜けていく。
「美味しい!」
私って王都に来てから美味しいものしか食べていないんじゃないかしら?
婚約解消したのをキッカケに、こんなに幸せを感じることって普通ある? その前だって幸せだったのに、上には上があるものよね……。
つまりこの幸せにも上がある……?
え、もしかして私って強運なの? 人生エンジョイしすぎじゃない?
「旨いか?」
「ええ!」
クラネットが作ってくれたご飯はクレープを食べた後でもまだまだ入るほど美味しくて、カディスに進められるままに食べてしまう。
「気に入っていただけて嬉しいです。ここにいればずっと朝昼晩おやつ付きで作ってあげられますから」
いつまでも手を止めようとはしない私をユーロはからかう。
確かにずっと食べていたいくらい美味しいけれど、さすがにずっと居座り続けるつもりはない。そこまで非常識ではない……と思いたいんだけど、王都と村とで常識が違いそうなのよね。
ここはそれくらい好意的に接してくれていることを喜ぶべきなのかしら?
「? ええ、それは楽しみね?」
とりあえずフォークを口に運ぶ手はひとまず止めて、そう返す。すると目の前のカディスはなぜか勢いよくゴホゴホと咳込む。
もしかして私、間違えた?
けれどせき込んで顔を真っ赤にするのはカディスだけで、ほかの三人はニコニコと笑っている。
そしてそこからからかう対象は私からカディスに移行したように、彼の方に向かってひたすらとニヤニヤとした笑みを浮かべ始める。
「お前ら!」
私の時と笑みの種類がなんか違うけれど、それでもやっぱり仲がいいっていうのは変わらないみたい。
すっと席を立ったユーロが出してくれたオレンジのシャーベットを食べながら、もしもここにずっと居られたら幸せなんだろうな、なんてそんなことをぼんやりと思うのだった。




