9.
「それじゃあ行ってきます」
「ああ頼んだぞ」
「任せてください」
「よろしくね、カンナさん」
あれから食事を終え、ユーロは喫茶店に出勤し、カディスとクラネットはそのまま工房に残ることとなった。
そして私はといえば、本日はお休みなのだというカンナさんにお買い物に付き合ってもらうのだ。
ポケットには少し多めのお金を入れて、準備は万端である。
お店のドアまで見送ってくれたカディスとクラネットに手を振って、私たちは店を後にした。
今回のお目当てはもちろん、しばらく生活するのに困らないだけの衣類である。
個人的にはポケットがあり、動きやすく、かつシンプルなデザインと色のもの。もっといえばお値段が安めの服を狙いたいところである。その条件を満たすのなら女性ものである必要性はない。
――と私は思っている。
だがカンナさんの方は違うらしい。
「あ、ミッシュさん。ここのワンピースかわいいですよ」
「少し装飾が多いのが……その、気になるわ」
「じゃあここは? シンプルなデザインですよ!」
「色が派手過ぎやしないかしら」
「あ、ここなんて!」
「カンナさん、ちょっといいかしら」
「何ですか?」
「あなたの着ている服を買った店に案内してくれると助かるわ」
「別にいいですけど見て分かるとおり……地味、ですよ? いかんせん親方が買ってきてくれたものでして、物持ちはいいんですけどね~」
「物持ちがいいなんて素晴らしいことじゃない!」
腕の先までヒラヒラのフリルがついた服や、見ているだけで目が痛くなるほどキラキラとした魚の鱗みたいなものがついている服よりも、毒性を持つ植物ですらそんな色してないわよ!? と突っ込みたくなるほど派手な色をしたワンピースよりも、私はカディスが選んだのだという服が素敵に見えるのだ。
それにカンナさんが案内してくれた店の服と比べれば地味に見えるが、彼女が今まさに着ている服だって十分可愛い。
裾にはレース編みのフリルがついているし、腕だってふんわりと絞ってある。色だって、色の白いカンナさんによく似合う青空のような色だ。
本当にカディスが選んだのだとすれば驚きだ。
カンナさんが幼い頃から選んできたのだろう。というよりもカンナさんに自分の着る服を選ばせたらきっとえらいことになるわね……。
それを分かっていて、彼女を案内役にしたのはきっと性別を考慮してなんだろうけど……一言欲しかったわ。
「……ミッシュさんは、親方と同じこと言うんですね」
カンナさんは目を細めて、小さく呟いた。
カディスの意見が認められたことが嬉しいのだろう。彼女の口元はほんの少しだけ、上にあがっていた。
でも私は知っているのだ。
どんなに物持ちがいいものだって、使う人がぞんざいに扱えばすぐにダメになってしまうってことを。
カンナさんの服は今の彼女が着るには少し幼いようにも見える。だがそれはきっと、カディスから買ってもらってからある程度の期間が経っているということなのだろう。
それでもカンナさんの服は色落ちをしていないどころか、レースがヨレてしまっているなんてこともない。手元に繕い直したような跡はあるが、それだって年中母ちゃんに服を繕い直してもらっている私でもない限り気づかないようなものだ。
どれだけ大切に扱われているかなんて見ればすぐに分かる。
「いいお父さんなのね」
「え? お父さん、ですか? 親方が聞いたら怒りそうですね」
「なんで?」
「だって親方は私たちの父ではありませんし、親方も父親の代わりにされることを嫌ってますから」
「え?」
「ああでも、血がつながってない子どもを3人も引き取ってくれた親方には感謝してますよ? 親方はそれを特別なことだとは思っていないんでしょうけど……。あ、着きましたよ!」
喉に何かがへばりついたように、私の口からカンナさんに返す言葉が発せられることはなかった。どういっていいのかわからないのだ。
けれど確かなことが一つだけある。
それは彼らが家族であることには変わりないのだろうってこと。
たった一日。正確に言えば一日も経っていないけれど、それでも私にだってわかることだ。家族であることに、血のつながりは絶対ではないのだ。
だって私と兄ちゃんは血のつながりはないし、婚約解消だってしたけれど、私は兄ちゃんを家族だって思ってる。
それと同じことなのだろう。




