7.
「カンナと親方のことは放っておくとして……ミッシュさんにしばらく過ごしてもらう部屋に案内するね」
あれからすぐに第二ラウンドに突入したカンナとカディスに、クラネットとユーロは介入することを止めたらしい。
年頃の娘と父親の衝突ってよくあることだって酒場でよくおじさん達がこぼしてたし、二人にとってはよく目にする光景なのかもしれない。
まぁおじさんたちの話と、カディス達とじゃ種類が違うようにも見えるけど、ともかくいろいろあるのだろう。
二人を工房へと残して、私達は居住スペースだという二階へと上がって行く。
古いが掃除のよく行き届いている階段を上ると目の前にはいくつもの扉が並んでいた。見えるだけでも10はある。とてもじゃないが親子4人だけで暮らしているとは到底思えない。
「この家ってもしかしてあなたたちの他にも誰か暮らしているの?」
誰かいるなら挨拶しないと、と二人に尋ねると双子らしく揃ってフルフルと首を振った。
「ううん、今は僕らだけだよ」
『今は』という言葉に多少引っかかりはしたものの、話そうとしなということはあまり深く聞くべきではないのだろう。
そう、と頷いて再び歩みを続ける。
そして奥から二番目の部屋の前でぴたりと足を止めた。
そしてユーロが手をかけたドアノブは、向かって左手側にあった、大通り沿いの部屋である。
「ミッシュさんの部屋はここだよ。掃除はさっき軽くしておいたけど、しばらく使ってなかった部屋だから細かいところは勘弁してね?」
「いえ、突然のことだったのにここまで綺麗にしてもらえて嬉しいわ」
開かれたその部屋は軽く掃除したというけれど、この部屋、私の部屋よりもずっと綺麗なのは不思議なことである。しばらく使ってなかったのに短時間でここまで綺麗にできるということは、普段から定期的に掃除しているのだろう。いつの間に掃除しに行ってくれたのか気づかないほどの短時間だったし。
きっとそうに違いない。
別に私の部屋が特別汚いとかではないはずだ。
……だって定期的に母ちゃんチェックが入るし。そこそこは綺麗なはずである。……多分。
それにしても細かいところってどこかしら?
窓のサッシとか机の裏とか?
そんなところ、私は全く気にしないわ。
……話がなくなったとはいえ、嫁入り前までいった女がそんなんでどうかとも思うが、気にしないったら気にしない。
でもほら、これだけ綺麗にしてもらって満足しない! とか、ここの埃が気になるわ! なんていったらきっと神様が私の頭から大量の水かけて反省しろ! って怒るに違いないわ!
いやもしもそんなことを誰かが言い出したら、神様が怒らなくても私が怒る。
「そう言ってもらえると助かるよ。後、日用品だけどブラシとか鏡とかそういう簡単なものは揃えたけど、衣服とかは全然だから明日以降カンナにでも連れて行ってもらってね?」
「わかったわ」
「それじゃあ、ミッシュさん。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
クラネットとユーロに手を振って、ドアをパタリと閉める。そして一人になった部屋で、私は自分の無計画さに頭を抱えていた。
だって着替えなんて、言われなかったら絶対忘れてたもの。
でもどれくらいかはまだわからないにしても何着か用意しておかなくっちゃならないわよね。それに洗濯のこととかも聞いておかなくっちゃ。
それにブラシっていつも使わないのよね……。
手櫛でちょちょいと……ってこれを機にそういうところ、治していった方がいいのかしら。兄ちゃんは気にしてなかったけど、母ちゃんには散々言われてたし。
それに今回のは出る前に母ちゃんがやってくれたけど、王都で暮らすなら自分でこの長い髪を結わなくちゃいけないのよね。いつものボサボサ髪で王都を歩くのはさすがの私でも気が引ける。
ならいっそ切ってしまうというのも手だろう。
そもそも結婚式で結い上げるために伸ばしていたけど、もうその必要もなくなってしまった。残ったのは毎朝結ぶのって面倒臭いな~という気持ちだけだ。
切ってしまえばブラシで梳かすのも楽だし、何より頭がずいぶんと軽くなるはずだ。
髪を切るナイフを貸してもらえるか、これも明日カンナさんに相談してみようっと。
色々と細々とした問題はありそうだが、屋根のある部屋で寝起きできるし、しばらく暮らすだけのお金はある。そんなに心配するようなことはなさそうだ。
「ふわぁぁっ」
大きなあくびを吐いてから用意してもらったベッドへと寝転がる。
真っ白なシーツと枕はお腹の満たされた私をすぐに睡眠の世界へと誘ってくれた。




