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6.

「ミッシュさん。こっちが兄のユーロ。で、こっちが妹のカンナです」


 カディスの工房兼鍛冶屋兼住居に滞在させてもらうことになった私は、クラネットの紹介により、同居人になる予定の彼の兄妹を紹介してもらうこととなった。



「よろしくお願いします」

 まずはクラネットに近い方に立つ方の少年が頭を下げる。ユーロというらしい。


 ここに来る前に通った喫茶店の少年とクラネット、よく似ているなぁと思っていたらまさか双子の兄弟だったとは驚きだ。うん、やっぱり喫茶店が似合うわよね。


 そしてもう一人、こっちは女の子の方なのだけど……。


「30過ぎても全然女っ気ないと思ってたのに、親方についに彼女が……」

 こちらは口元を押さえて、涙を流している。

 完全に私がカディスの彼女だかなんかとしてやってきたって勘違いされているわね。


 ここまで喜んでいるところに非常に言いにくいのだが、これから期間限定とはいえ一緒に暮らしていく以上は言わねばなるまい。



「あの、私はそういうのじゃなくてね」

 カンナさんに向かって手を伸ばしつつ、なんと説明すればいいか思案していると後ろから話の中心であるカディスがやってくる。そしてズンズンとカンナさんと距離を詰めていったら次の瞬間、彼女に大きなげんこつを一つお見舞いした。


「カンナ、変なこと言うんじゃねえ! この嬢ちゃんはそういうんじゃねぇ!」

 真っ赤な顔でプルプルと拳を振るわせて。

 多分30過ぎて~ってところの件を私に聞かれたのが、恥ずかしかったんだろう。


 そういうのって人それぞれだと思うし、別にいいと思うんだけど。

 実際、私も今まさに独り身ロードに切り替えて突き進もうとしている訳だし。


「イタいですよ、親方! 私は親方の子どもとして、親方の今後を心配してあげてるんじゃないですか!!」

「それが余計なお世話だっつうんだよ!」


 ああ、なるほど。さっきまでクラネット達兄弟はカディスの家に下宿しているのだとばかり思ってたけど、家族なのね。

 娘であるカンナさんに女性問題の心配なんてされたら恥ずかしくなるのも無理はないだろう。


 それにしても女っ気がないってことはこの子たちのお母ちゃんはもう……。

 こうして明るく振る舞っているのは、父親に新しい人を見つけてほしいというカンナさんなりの気遣いなのかもしれない。


 だがカディスも私みたいな、花嫁修業を受ける前から諦められているような女とそういう関係だと勘違いされたら困るだろう。


 昔からお互いを知っているどころか、もう産まれた時から家族同然の兄ちゃんと結婚するならそれでも良かったけど、普通はお嫁さんにするなら家事能力が高い人がいいわよね!


「カンナさん、私とカディスは本当にそういう関係じゃないのよ。私はただカディスに武器を作ってもらうだけなの。だからできあがったものを受け取って、お金を払ったらお暇するわ」


『お暇』って使う機会あるのかな? って貸してもらった本を読みながら思ってたけど、こんなところで役立つとはね!

 お暇、いいポジションに収まったんじゃない?

 コンラット村にずっといたら多分、一生を終えるまで一度も使わなかっただろうし。


「そ、そうだ! 俺はただ嬢ちゃんの武器を作りたかっただけで……」

 私にしては難しい言葉を使えたと少しだけ誇らしく思っていると、カディスも私の言葉に同調した。

 けれどカンナさんは納得いかないとばかりに頬を膨らませて、カディスに噛みつくように一気に距離を詰めた。


「でも私、知ってますからね! 親方がこの前酔っぱらった時「あああああ、それ以上は言うんじゃない!」


 思い出したとばかりに顔を再び真っ赤に染め上げて、カンナさんの口を塞ぐカディス。その姿には私だけでなく、クラネットとユーロもうり二つの顔を同じ方向へと傾げる。

 口を塞がれながらもカンナさんはもごもごと口を動かすことを止めず、そしてそこまで抵抗されながらもカディスは彼女の口を押さえる手をどけようとはしない。


 よほど聞かれたくないんだろうなぁ……。


 うちの父ちゃんも酔うとたまに、素面なら絶対に口にしないこと言い出すことがある。

 若かりし日の母ちゃんとの思い出とか、いかに母ちゃんが可愛かったかとか……まぁいわゆるノロケである。


 あれ、酔い明けの父ちゃんに言うと口止め料もらえるのよね!

 母ちゃんには絶対に言うなよ! って。


 私はまだ記憶をなくしたり、自制が効かなくなるまでは飲んだことないけど、思い出すと恥ずかしいことを口走るっていうのは酒飲みあるあるなのかもしれない。


 ようやくカディスの手から解放されたカンナさんは、スゥハァスゥハァと深呼吸を繰り返している。

 そして開口一番で発した言葉といえば「親方、鉄臭いです!!」である。


 それに対するカディスはどこか誇らしげに胸を張り上げる。


「はっ、鍛冶師なら鉄臭いのは当然だ!」


 カディスの言うことは至極当然のことではある。職人なんだもの。その仕事特有の、身体につく匂いというものがある。


 だが即座に子ども達三人が口を揃えて放った言葉に、私はつい笑いがこぼれてしまった。


「そんなんだから奥さんどころか彼女も出来ないんだよ」


 綺麗に揃った声の主たちは、揃ってカディスに呆れた表情を向けていた。


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