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4.

「いい身体つきしてるし、なかなかの腕前だとは思ったがAランク越えとは恐れ入った……。こりゃあますます武器作り終わるまで逃がしちゃいけねえな……」

「また儲からないことして……といいたいところですが、これは賛成ですね。ちょうど勇者とその一行の分の武器代が多めに入ったことですし」

「勇者達の武器で一世一代の大仕事が終わったと思ってたのにな……。まさかそれと同じくらいの、しかも女と出会えるとはな。これで逃せば鍛冶師として一生の恥だな」

「ええ」


 私が今後の過ごし方について思案していると、なにやらカディスとクラネットのお話も終わったらしい。


 カディスの「嬢ちゃん」と呼ぶ声は真面目なものであった。

 なにかしらと首を傾げてからカディスをまっすぐと見つめると、彼は今更ながらな質問を投げかけた。


「あんた、後どのくらいこの王都に滞在するんだ? 他の仕事を放ってでもあんたの武器を優先させる」

「後どのくらいもなにも、このお茶を飲み終わったら買い物して帰るわよ?」

「は?」

「は? とか言われても、元々日帰りの予定だったんだもの。武器は買えなくても他の買い物はできるし、それを終えればここに残る用事もないわ。それに王都近郊の宿賃って高いんだもの。なるべく泊りは避けたいわ。お金がないわけでもないけど、それでも早く帰るに越したことはないわ」

「つまりは用事と宿があればいいんだな?」

「まぁ……そうね?」


 私の話をどう考えたらそうなるのだろうか。

 いや、そうとれないこともないけれど、でもあんまりにも無理矢理すぎじゃない?


「なら俺が武器を打ち終わるまで待つのを用事にしたらいい。それに宿がないならうち泊まってけ。うちならタダだぞ!」

「はぁ?」


 私が言うのもなんだけど、カディスってものすごくバカなの!?

 初対面の人間を、それも女を、引き留めてまで普通自分の家に泊める!?


「それはいいですね! あ、安心してください。この家には親方の他に僕と兄と妹がいますから。まぁいなくても手なんか出せる人ではないので安心してください」

「手を出すとか出さないとかの問題じゃなくて!」

「じゃあ何が問題なんです?」


 同じく今日初めて出会ったカディス相手なら言い返せるのに、こうも純粋な目でクラネットに見つめられるとなぜだか言葉が喉元で止まってしまう。

 そして出る頃には「だってほら、家族が心配するし」と数段階ほど柔らかい表現になっているのだ。


 するとクラネットはああそうかと納得したようにうなずいて見せる。

 納得してくれたようで何よりだ。そう思いながらまだ温かい紅茶を啜る。すると私が紅茶で喉を潤している隙に、クラネットは一度奥へと引き返していった。


 何か用事でもあるのだろうか?

 そんなことを想いながらお菓子を食べて待っていると、クラネットは一分とせずにとある物を手にして帰ってくる。

 そして「どうぞ」とそれを私へと差し出す。


「えっと……これは?」

「便せんとペンですよ?」

「それはさすがの私でも見ればわかるわ!」

「あ、手紙の他にも何か送るものがあったら言ってくださいね。一緒に出してきますから」


 え、もしかして私がここに滞在することって確定したの? いつのまに?

 カディスはカディスでなにやら奥から女の子を呼び出して、生活用品一式揃えてくるようになんて指示出してるし……。



 ここまで来たら腹をくくるべきなのかしら?

 悪い点をあげるならば私は彼らと初対面でよく知らない上に、こうして話を一方的に進めてしまうことだ。

 だがいい点? をあげるならばカディスの打った武器はどれも一流の物であることだ。


 明らかに悪い点の方が大きいはずなんだけど、カディスからもクラネットからも、こう……なんというか、嫌な感じみたいなのは一切しないのよね。


 だからこそ出されたお茶とお菓子を食べたわけで、悪い人達ではないのだろう。



 よし、ここにお世話になることにしよう!

 昔から『困ったときには直感で選択しろ』って父ちゃんも言ってたし。


 帰るのは少し遅くなるけど、兄ちゃんたちがおみやげを持って帰ってくるよりは早いだろう。だから少しの間、母ちゃんたちには我慢してもらうことにしよう。


 早速クラネットからもらった便せんで実家への手紙をしたためるべく、私はペンを手に取った。

 そしてなるべく簡潔にまとめた結果、手紙はわずか二枚の便せんで収まった。ちょっと素っ気ない気もするが、別に嫁にきたわけでもない。一ヶ月もすればたくさんのおみやげを手に帰るのだ。これくらいで十分だろう。


 書き上がった手紙を可愛らしい封筒に入れて、クラネットに託した。


「他に送りたいものは何かありますか?」

 すぐに運送ギルドに向かってくれるのだというクラネットは、お財布と手紙を片手にまとめて振り返る。

 そんな彼に「ああ、じゃあこれもお願い」と城で持たせてもらったお菓子を渡した。


 あまり多く持たせるものなと思いつつも、これはさすがに早く食べてもらわなくてはならない。

 もう一枚追加の便せんを分けてもらって、こっちにはレニィちゃんへと書いた便せんを折り畳んで入れておく。

 レオンは元気そうだったことと、このお菓子はお城の人からもらったから食べてくれという簡単な文ではある。だがないよりマシだろう。


 それにレオンはいち早く、自分の近況をレニィちゃんに伝えて欲しいだろうし。


「じゃあ行ってきますね」

 クラネットの背中を、つい一時間ほど前に踏み込んだ入り口まで見送る。

 店として入った場所がまさか一時的にでも自分の帰る場所になるなんて想像もしてなかった。


 王都って不思議な場所よね~。


 ――こうして私は生涯を共にする武器を手に入れるため、王都での滞在生活を決めたのだった。


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