病室にて -妹、襲来- -4-
「......ちょっと貸してもらっていいかな?」
僕が怒りに震えながら、それを何とか隠すために笑みを作った。
「ひっ......」
本条の妹は僕の顔を見て怯えた様子を見せた。
彼女は素直にBL本を僕に手渡す。
「......ありがとう」
僕はペラペラとページを捲る。
見事に全ての受け側の男の顔が、僕の顔とすり替えてあった。
そういえば、先週に本条が言ってた気がする。
"妹の持ってるBL本の受け側の男の顔を全部俺の顔にしてやる"
でもあれは、何か条件が付いていたような...何だっけか。
...まあ...それはさておき。
僕はBL本を閉じる。
「これ、借りてもいいかな?ちょっとお兄さんとこれについて相談しなければならないことがあってね。明日お兄さんに渡して返すよ。」
僕はなるべく冷静を装って、本条の妹に告げた。
「はっはい!ど、どうぞ...」
萎縮した様子で彼女が答えた。
鏡を見てないので分からないが、どうやら酷い顔を見せてしまったに違いない。
「あの...おすすめは猛君がわざとスパゲッティーソースを体に零して、それを優紀が恥ずかしそうに舐めとるシーンです。27ページの...あとは...」
「いや、大丈夫。絶対にもう読むことは無いから。」
...どうやらそんなに萎縮してないみたいだ。
「...こういうの好きみたいだね」
「はい。というより、女の子は皆大好きです」
本条の妹ははきはきと答える。
「そっか......」
僕はBL本をベッドの上にそっと置いた。
「それ飲み終わったんやったらもろとくわ」
「あっありがとうございます」
僕は本条の妹からジュースの缶を受けとると、ベッド脇のゴミ箱に自分のと合わせて捨てた。
「兄のこと嫌いになりました...?」
「いや、こんなことで本気に嫌いになるほどの関係じゃないよ。僕らは。」
「では...やはり...」
「まあ、その "では...やはり..." は絶対に間違っているからね!それは、肝に銘じてほしい」
本条の妹は首を傾げている。
「照れ隠しなのか、ほんとにそういう関係じゃないのか...私には判断がつきません」
「完全にそういう関係じゃありません。そろそろ諦めてくれよ」
僕は小さくため息をついた。
「僕じゃなくて、お兄さん...なんかもうお兄さんとも言いたくないな...本条にも聞いてみなよ。あいつも絶対僕と同じこと言うぜ」
「兄にも尋ねました。そしたら、兄は遠くを見つめるんです」
「へ?どういうこと」
「"あいつと俺の関係か...お前にはまだ早いかな..."そう言って、悲しげな表情を浮かべることもあります。」
「完全にふざけとるやん。そして、そのせいでややこしくなってるやないか!」
僕はここにいない友人への苛立ちを募らせるばかりだ。
病室にて -妹、襲来4- 終