こぐまのタグとラップ
こぐまの兄弟はなかよしです。おにいさんの名はタグ、おとうとはラップといいました。ふたりは学校がおわるといつも校門でまちあわせ。いっしょに並んでかえります。その日はおとうとのラップが先にやってきてタグが出てくるのをまっていました。するとロバの郵便屋さんが通りのむこうから忙しそうにやってきました。りょうほうの手に手紙やはがきをいっぱいもって駆けています。せなかに背負った赤いおおきなカバンもいっしょにはねていました。
「ゆうびんやさん、こんにちは」
「やあラップ。学校がおわったところかい。気をつけてかえるんだよ」
郵便屋さんはおしりのポケットからハンカチをだすと、ひたいの汗をぬぐいました。そしてふたたびポケットにしまうとラップに手をふって走っていってしまいました。そのとき郵便屋さんのおしりからはらりと何かが落ちました。ハンカチです。
「ゆうびんやさん、まって。おとしものだよ」
ところが郵便屋さんはこがらだけれど足がはやくて、おまけにとても急いでいましたから、ラップのよびかけが耳に届くまえに姿がみえなくなってしまいました。ラップはハンカチを拾いあげました。
「どうしよう、こまったなあ」
「おまたせラップ。あれ、どうしたんだい」
タグがやってきました。ラップはハンカチのことを話しました。
「よし、だったらおいかけよう。いそげばきっとおいつけるよ」
そうしてふたりはロバの郵便屋さんのあとを追うことにしました。
ふたりは公園にやってきました。ベンチでは三毛猫のおばあさんがおひさまを浴びて気持ちよさそうに居眠りをしていました。そのときです、風がぴゅううと吹いておばあさんの帽子をとばしてしまいました。帽子はじてんしゃのしゃりんのようにころころと転がっていきます。おばあさんはおおあわて。
「おやまあ、なんてこと」
「たいへんだ、つかまえなくっちゃ」
こぐまの兄弟は帽子をおいかけました。そして帽子のよごれをはらうとおばあさんに渡してあげました。
「ありがとう、ぼうやたち。助かったわ」
「いえ。ところでおばあさん、ここをゆうびんやさんがとおりませんでしたか」
「さあ、わたしは眠っていたからねえ。ごめんなさいね」
「そうですか……それじゃあ、さようなら」
ふたりが立ち去ろうとするとおばあさんがいいました。
「そうだ、ちょっとまって」
そしてハンドバッグのなかから鈴をとりだすとタグにわたしました。ちいさな金色の鈴でふるとちりりとすんだ音がします。
「おれいに持っていってちょうだい。こんなものしかなくて申し訳ないけれど」
「わあ、すてきなすずだ。おばあさん、ありがとう。ほらごらんよラップ」
「ほんとうにすてきだねえ。とってもいいおとがするよ。ありがとうおばあさん、たいせつにするね」
タグは鈴をラップのカバンにつけてあげました。うごくたびにちりりちりりと音がします。ふたりはおれいとあいさつをいって公園をあとにしました。
しばらく歩くと畑にでました。みちばたには荷車がとめてあってイノシシのおじさんが木箱をつんでいるところでした。木箱のなかはとれたてのジャガイモでいっぱいです。おじさんはかかえていた箱を荷車のうえにおろすとこしをのばしておおきく息をはきました。
「ふう。おや、ちびくんたちこんにちは。この辺じゃ見かけない子だけれどよりみちかい」
「こんにちはイノシシさん。じつは……」
タグはロバの郵便屋さんの話をしました。おじさんは腰にさげていたてぬぐいで顔のあせをふきながら聞いていました。そして聞きおわるとはないきを荒くして。
「そりゃあたいへんだ。すぐに追っかけないとな。それじゃ俺はこっちをさがしてみるよ。じゃあな」
それだけいうとふたりがやって来たほうこうへ走っていってしまいました。それはもう、ものすごい勢いです。
「ああ、おじさんまって」
おじさんのすがたはあっというまに消えてしまいました。あとにのこされたふたりはきょとんと顔をみあわせていましたが先にすすむことにしました。
たくさんのおみせが並んだしょうてんがいをぬけると、みちはふたつにわかれていました。
「どっちだろう。ねえラップはどうおもう」
「ええと、どっちかなあ」
すると犬のおばさんがやってきました。買い物のかえりなのでしょう、ふくらんだカバンを持って、はんたいではちいさな女の子のてをひいています。
「ぼうやたちどうしたの。なにか困りごと」
「おばさん、こんにちは。あのね……」
ラップは郵便屋さんの話をしました。
「それは困ったわね……そうだ、そのハンカチを貸してもらえるかしら」
おばさんはハンカチを受けとるとくんくんとにおいをかぎました。そしてこんどは顔をあげ目をつぶってにおいをかぎます。風のにおいをかいでいるようでした。
「そうね……うん、こっち。右からするわ。右のみちにまちがいないとおもう」
「やったあ。ありがとう、おばさん」
ふたりが右のみちにいこうとしたとき、女の子がいいました。
「ねえ、おにいちゃん」
「ん、なあに」
「ええと、ねえ。がっこうってたのしい」
タグとラップは顔をみあわせると、にっこりとわらって女の子にいいました。
「もちろんさ。がっこうはたのしいよ」
「そうだよ、ぼくもすきさ。おともだちといっぱいあそべるんだ。まいにちたのしいよ」
「わあ、そうなの。いいなあ。わたしもはやくいきたいなあ」
「そうだ、ちょっとまって」
そういうとラップはカバンをごそごそとさせて中からちいさなおりがみをとりだしました。あかいチューリップのおりがみです。
「これ、きょうがっこうでつくったんだ。なかなかきれいにできたから、きみにあげるよ。はい、どうぞ」
「ありがとう。わあ、すてきなチューリップ。ねえママみて。こんなにいいものもらっちゃった」
「あら、いいものもらったわね。ぼうやたちありがとうね」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「郵便屋さんに会えるといいわね。でも気をつけていくのよ。あんまり無理しないでね。わからない所にでたらひき返すのよ」
「はいそうします」
「ばいばい、おにいちゃん。またね」
「ばいばい」
ふたりは右のみちへすすんでいきました。すこしあるいてラップがいいました。
「ねえタグ。あのおんなのこよろこんでいたね」
「そうだったねえ。たからものをもらったようにうれしそうだったね。きっとたいせつにしてくれるよ」
うれしそうに話すラップをみて、タグもなんだかうれしくなりました。
しばらく進んでいくとさかみちにでました。ながいながいのぼりざかです。しかも来たことのないところでしたから、ふたりはなんだかこころぼそくなってしまいました。
「ねえねえ、タグ。だいじょうぶかなあ。ぼく、こんなところしらないよ」
「だいじょうぶだよ。ほら、さきをいそがなくちゃ。がんばろうよ」
「でも、ぼくしんぱいになってきちゃったんだ。それにちょっぴりつかれちゃったよ。ねえ、ひきかえさない」
「ええ。ひきかえそうってほんきかい。せっかくここまできたのに」
「だって……」
「わかったよ。それじゃあラップはもどればいいよ。ぼくはひとりでいくからさ。じゃあね」
タグはひとりでさかをのぼっていきます。ラップは泣きそうなかおになって、そのばにしゃがみこんでしまいました。
さかをのぼりきったところでタグは不安になってきました。ふりかえってみるとラップのすがたはみえません。
「どうしよう……」
おおいそぎでさかをおりてラップとわかれたところまでもどりましたが、あたりをみわたしてもすがたはみつかりませんでした。
「ラップ。ラップどこだい。ごめんよ。ぼくがわるかったよ。へんじをしてよ」
するとその声をきいたのか、目のまえにあるおみせからウサギのおねえさんが出てきました。
「あら、くまのぼうやどうしたの。そんなにかなしそうな顔をして」
「ラップと……おとうととはぐれてしまったんです。このあたりはしらないばしょだから、まいごになってたらどうしよう」
「あらあら、それは大変ね。そうだ、ちょっとまってね。なにかものおとが聞こえないかきいてみるから」
そういうとおねえさんは、ながい耳をぴんとたてて、それをいろいろなほうこうへ向けました。
「……ん、ねえくまくん。おとうとさんは音のするものをもってたりしないかしら。そうね、たとえば鈴のような」
「あっ、すずです。ラップはかばんにすずをつけてました。ちりんときれいなおとがするやつです」
「やっぱり。あっちのほうから聞こえるわ。そんなにとおくではないみたいよ」
「ありがとう。いってみます」
タグはかけあしで、さかのはんたいのほうへ向かいました。するとラップがこちらにむかってくるのが見えます。
「ラップ。よかった、しんぱいしたんだよ」
「ごめんねタグ。ぼく、そこのこうえんでみずをのんできたんだ。そうしたら、すこしげんきがもどってきたから、タグにおいつこうとおもって」
「こっちこそごめん。さっきはひどいことをいっちゃった」
「ううん、いいよ。さあいこうよ」
そうしてふたりでさかをのぼっていきました。
さかのうえについて少しやすんでいると、どこからかふたりをよぶ声がきこえてきました。だれだろう。きょろきょろとみまわしてもだれもいません。ふと上をみてみるとおおきな木のうえにカラスのおにいさんがいました。おにいさんは植木屋さんで木のえだをきれいに切りそろえているところでした。ふたりは木のねもとまでいって上をみあげました。
「こんにちは、うえきやさん」
「おう。ぼうずたち、どうしたんだい」
「ぼくたちゆうびんやさんをさがしているんです。わたさなくっちゃいけないものがあるんです」
「郵便屋さんか。さっきこの下をとおったような気もするけど……。ちょっとまってな」
そういうと植木屋さんはするするっと木のてっぺんまでのぼってとおくをながめました。
「ええっと。……ああ、いたいた。いたぞ。あっちのほうをあるいてる。みどりのさんかく屋根のいえのまえだ」
みどりのさんかく屋根のいえは、ふたりのうちのすぐそばです。タグとラップはなんだかげんきになりました。
「ありがとう、うえきやさん。いそいでいってみます」
「そうか、やくにたってよかったよ。がんばりな」
みどりのさんかく屋根のいえのまえにつくと、むこうからロバの郵便屋さんがもどってくるところでした。にもつがへったからか、あしどりもかるそうです。
「ゆうびんやさん」
「おやこぐまくんたち、いま帰りかい。ずいぶんよりみちをしたようだね」
「このハンカチをがっこうのまえでひろって、とどけようとおもってさがしていたんです」
「ああきみたちがひろってくれていたのか。ありがとう。どこかでなくしてしまって困っていたんだ、たすかるよ。それにしても、たいへんだったんじゃないかい」
「ううん、ちっとも。ね、タグ」
「うん。それどころかたのしかったです」
「そうかい、それならばよかった。そうそう、たったいま君たちのいえにお届けものをはいたつしてきたところだよ。おばあさんからだったから、なにかいいものかもしれないよ」
「わあ、なんだろう」
「いってみようよ。それじゃゆうびんやさん、さようなら」
「さようなら」
「さよなら、ほんとうにありがとうね。気をつけておかえり」
「ただいまあ」
「おかえりなさい。あなたたち、ずいぶんおそかったわね。よりみちしてたの」
おかあさんは心配をしていたようで、げんかんでふたりの帰りをまっていました。
「うん、ちょっとね。ごめんなさい」
「ごめんなさい。でもね、おかあさんにはなしたいこといっぱいあるんだ」
「そうなの。でもそのまえに、手をあらってうがいをしてね。それにいいものがあるわよ」
「はあい。なんだろう」
「なんだろうねえ」
ふたりは手をあらいうがいをすませるとキッチンにいきました。テーブルのうえにはきれいな紙でつつまれた箱がおいてありました。
「さあすわって。おやつにしましょう。おばあさんからおくりものよ」
箱をあけると、なかみはハチミツのパイでした。おばあさんのてづくりの、とってもおいしいおかしです。もちろんふたりはだいすきです。
そうしてタグとラップはハチミツのパイをたべながら、きょうのぼうけんをおかあさんに聞かせてあげました。おかあさんはおどろいたり、たのしそうな顔をうかべながら、ふたりの話をうれしそうにきいていました。
おしまい




