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何かを踏んだ。

作者: 禿胡瓜

ゲームのロード時間中に書きあげました^q^

 ある休日の昼下がり。

 家の側の通学路だとか通勤路だとかそんな当たり前の道を何か適当な事を考えながら歩いていた。

 視線がどこを向いていたか定かじゃない。

 ただ、地面を見ていなかったのは確かだ。

 だから何かを踏んだ。

 右足の踵に軽い抵抗を感じたときにはもう遅い。

 既に体重の移動は終わっていた。

 硬かった気もするし少し柔らかかった気もする。

 僅かに丸みを帯びていたそれを確かに踏んだ。

 小さな小さな音で、だけどハッキリした破裂音を身体の芯で聴いた。

 中身が圧力に耐え切れず皮を破って飛び出してきた音だ。


 何とも言えない感覚が身体に走る。

 浮き足立ちながら二、三歩。

 咄嗟に右足の下に何があったのか確かめたくなったがグッと堪える。

 これ以上、嫌な思いをしたくない。

 そういえば後ろに誰か歩いていた事を思い出す。

 その人は踏んだ瞬間を見たかもしれない。

 顔が少しだけ火照る。

 ギクシャクしていた身体に鞭を打って至って平然に歩く。

『何も踏んでいませんよ、踏んでも気付いていませんよ』と。


 道の脇に生えている雑草に右足を擦り付けながら考える。

 一体なにを踏んだのだろうかと。

 感触は思い出さなくてもまだ足にこびり付いている。

 丸い何かだった気がする。

 第一に思い浮かぶのが昆虫だ。

 そういえばバッタが飛んでいた。

 だが、バッタを踏んだのなら『くしゃくしゃ』にした紙を踏みつけた様な感触の筈だ。

 では、踏んだのは昆虫ではなく木の実などだろうか。

 いや、周りに木はなかった。

 それでも風に吹かれて転がってきた可能性もある。


 結局、足に残った感触だけでは何を踏んだのか特定する事が出来ずに家にたどり着いた。

 玄関先で恐る恐る右足の裏を見てみる。

 家の中にこびり付いた何かを持ち込みたくないし、少しだけ好奇心もあった。

 足の裏には……何もついていない。

 ……いや、ほんの僅かだけ光を反射する粘液が付いていた。

 これは見たことがある。

 蝸牛や蛞蝓が通った跡に残る『あれ』だ。

 じゃあ踏んだのはそいつらか。

 いや違う。

 蝸牛なら殻の割れた感触がするはずだし、蛞蝓ならもっと柔らかいはずだ。

 一体何を踏んだのか。

 もうそれ以外、考えられなくなっていた。

 家の中に入るのを止め、元来た道を歩き始めた。


 何もすることがなく退屈だった休日に初めて目的を持った。

 何かを踏んだ場所はしっかりと覚えている。

 交差点を曲がってすぐの電柱の下だ。

 早足でその場所を目指す。

 なぜ踏んだ何かを確かめようと思ったのかはわからない。

 無残に潰れて『ぐちゃぐちゃ』になった何かを見ても嫌な気持ちしかしないだろう。

 だけど見たい。

 見て何を踏んだのか確かめたい。

 訳の分からない高揚を覚えながら電柱にたどり着く。

 そう、確かにここだ。

 ここで何かを踏んだ。

 辺りをゆっくりと歩き周り、踏んだ何かを探した。

 ……だが、そこには何もなかった。


 右足には、まだあの感触が残っている。


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― 新着の感想 ―
[一言] とても素敵な話だと思いました。 素敵と言う言葉があっているのかどうかは分かりませんが、私はそう感じました。 感想を書くほどの話に出会ったのは、久しぶりです。
[良い点] こういう事ありそう [一言] 面白かったです。結局なんだかわからないのがいい。
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